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2014.12.29 11:02  週刊ポスト

「カンガルーケア」と「完全母乳」で赤ちゃんが危ない【3】

■重症黄疸の発生率は100倍

 完全母乳と並んで「母子の絆を強める」という精神論から日本で急速に広められた「カンガルーケア」(早期母子接触)も、赤ちゃんをさらに危険な状況に追い込んでいる。カンガルーケアは新生児を出生直後から裸のまま病室の母親の胸に「うつぶせ状態」で抱かせる育児法だ。抱かせる時間は10分~2時間程度と病院によって違いがあるが、「産まれた時についている胎脂が赤ちゃんの身体を守っている」として、産湯で洗わずに赤ちゃんを抱かせる。

 もともとは30年以上前の1979年に南米コロンビアの首都ボゴタの病院で始まったケアで、経済危機で保育器が不足していたため、出生体重1500g未満の極低出生体重児を母親に抱かせたところ、「死亡率が下がり、母親の育児放棄も減少した」と報告されたことで注目を浴びた。

 WHOはこれをカンガルーマザーケアプログラムと名づけて途上国での低出生体重児に対する育児法として推奨し、その後、先進国の一部でも「母子の愛情形成が強まる」というメリットに注目が集まり推進されるようになった。

 この途上国向けの育児法を日本では2007年に厚生労働省が授乳・離乳のガイドラインで推奨したことから、日本の分娩施設の4分の1にあたる約600施設を対象にした調査(10年)によると、全体の61%の施設がカンガルーケアを実施し、助産院では70%、とくにWHO・ユニセフ認定の「赤ちゃんにやさしい病院」では92%と非常に高い割合で実施されている。ちなみに米国の実施率は約54%とされるが、ニューヨーク州では25%未満など地域差は大きい。

「国の推奨によって日本では妊婦の間でスタンダードになってしまった。妊婦が『カンガルーケアをしていますか』と産院に問い合わせ、実施していない病院は人気がなく経営危機に陥ってしまうため、仕方なくカンガルーケアを続ける産院もあるといいます。自然に近いほど『いいお産である』という思い込みのイメージが妊婦にも強すぎるのです。イメージより何より赤ちゃんの健康が一番大事だということがスッポリ抜け落ちていて危険です」(ある産婦人科医)

 40年にわたって新生児の体温研究を続けてきた久保田氏は、カンガルーケアに強く警鐘を鳴らす。

「私の研究では、母親の胎内にいるときの赤ちゃんの体温は平均38.2度です。母親に快適な25度前後に設定されている日本の分娩室の室温は赤ちゃんには非常に寒い。寒い部屋で裸のまま母親に抱かれても体温上昇効果はなく、逆に低体温で酸素不足(チアノーゼ)になる危険が高まる。さらにそのまま置かれると赤ちゃんは胃腸の働きが悪くなり、糖水や人工乳を与えても吐いてしまう。栄養不足による低血糖や排便の遅れによる重症黄疸のリスクが一層高まるのです」

 そして何より、生まれた直後の不安定な赤ちゃんの管理を出産で体力を奪われた母親に任せるカンガルーケアには、異変があっても母親が気づかず、医療スタッフの発見が遅れて重症化するという新生児管理上の重大な欠陥がある。新生児の事故の多くはカンガルーケアと母子同室のさなかに起きている。

 実は、推進派の医師グループによる『「赤ちゃんにやさしい病院」における分娩直後に行う母子の皮膚接触の実態調査』(2008年)でも、回答した48施設のうち23施設で原因不明のチアノーゼや心肺停止、低体温、低血糖など57例が報告され、〈分娩直後にKC(カンガルーケア)を行なうことで原因不明のチアノーゼや気道閉塞などが相当数発症していることは事実であり、それを医療スタッフが気付くことで死亡事例に至らずにすんでいると捉えることもできる。これらの事例とKCとの関連性も明らかにする必要がある〉と注意を呼びかけている。

 本来、先進国でいち早くカンガルーケアを普及させた日本はそうしたリスクを世界に発信しなければならない責任がある。にもかかわらず、専門医からの警鐘はお産の現場に届かず「完全母乳」「カンガルーケア」「24時間母子同室」の3点セットが推奨され、新生児の事故が繰り返されている。

 久保田氏の医院では、国が勧める3点セットへの反証として、

●カンガルーケアは行なわずに生まれる赤ちゃん全員を生後2時間、保育器で温める(体温管理)

●生まれて1時間目に糖水30cc(体重3000gの場合)を与える(栄養管理)

 という久保田式新生児管理を行なってきた。その結果、完全母乳主義やカンガルーケアを実施する病院では「5人に1人に起きている」(ベテラン助産師)とされる重症黄疸の発生率が久保田氏の医院では1万638例中22例。0.2%という発生率は、なんと約500人に1人である。この事実は2013年の「福岡産科婦人科学会」で発表されたが、この事実ひとつとっても、カンガルーケアや完全母乳に、そのリスクを許容しても余りあるメリットがあるかは甚だ疑問である。

 いずれにせよ、まず必要なのは論争ではなく、叩き台となるデータである。現状、推進派は明確なデータを提示しておらず、一方の久保田氏ら反対派は具体的データを集めて論じている。推進派からの論拠の提示に期待しつつ、まずはすでに久保田氏が持つデータを全面的に示して、それが科学的に正しいかどうか広く議論する場を作るべきだ。

 そのために久保田氏は、本連載でこれから示すデータも含め、なぜこの新生児管理に問題が多いのかを論じた著書『「カンガルーケア」と「完全母乳」で赤ちゃんが危ない』(小社刊)を緊急出版した。

 特に推進派の人たちには、これを虚心坦懐に読んでいただきたい。そのうえで、推進する理由は何かを改めて点検してもらいたい。久保田氏も取材班も、それを最も望んでいる。中傷は何も生まないが、議論は社会的成果をもたらすと信じるからである。(【4】に続く)

<プロフィール>
久保田史郎(くぼた・しろう):医学博士。東邦大学医学部卒業後、九州大学医学部・麻酔科学教室、産婦人科学教室を経て、福岡赤十字病院・産婦人科に勤務、1983年に開業。産科医として約2万人の赤ちゃんを取り上げ、その臨床データをもとに久保田式新生児管理法を確立。厚労省・学会が推奨する「カンガルーケア」と「完全母乳」に警鐘を鳴らす。

※週刊ポスト2014年11月21日号

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