斬新なデザインを求めて有名クリエイターに依頼を?
「いいえ、スタッフがみんなで頭をつきあわせて一気にデザインしきった、という感じなんです。通常なら経営陣の意向をはかったりかなり時間がかかるのですが、ハスラーに関しては非常に短い時間の中で、丸い目、ビビッドなカラーと、どんどんスタイルが決まっていったんですよ」
時間は短くても、妥協は皆無だったという。
「一般的な売れ筋の色では物足りないと、鮮やかさを極限まで追究しました。パッションオレンジ、サマーブルーメタリック、キャンディピンクメタリックの3色はすべて、独自開発した新色です」
外観だけではない。車内の色調や素材感もポップだ。
「ダッシュボードのカラーパネルは塗装ではなくて、樹脂そのものの色なんです。これも特別に開発した新素材で、塗装では実現できない、つるつるして光沢感のある、気持ちいい質感になりました」
では、「ハスラー」をいったい誰に売ろうとしたのか。
「弊社では珍しいのですが、年齢も性別も設定していません。ターゲットはアクティブな暮らしを求める人。デザインに関心がある人。あくまで『ライフスタイル』が軸です」
ユーザーの年齢も性別も想定しない。パンフレットを開くと、サーフィンやキャンプのシーンが目に飛び込んでくる。機能の紹介よりも、「シーン」「使い方」を前面に押し出す販売手法は、同社として初めての試みだという。
モーターショーで披露すると、カップルの行例ができた。「一目惚れした」と指名買いする人も多く、購入層は実に20、30代が半分を占める。
「着ているファッションに似合うからと、選んでくれる都会のユーザーもいます」
「実用」という枠組みから羽ばたきつつある軽自動車。逆から言えば、便利で安くて技術が優れていれば売れて当然そんな常識だけでは通用しなくなってきている。「ハスラー」のヒットは、軽市場のそうした変化を浮き彫りにしてはいないだろうか。
製品が優秀なのは当たり前。それよりも自分の日常生活を軸にして心地よい体験を与えてくれるモノを選ぶ、という「暮らし方消費」が根を下ろしつつある。
「ハスラー」のヒットから見えてきたのは、暮らし方を消費と直接つなげていくアクティブな消費者の姿だった。
※SAPIO2015年2月号