芸能

菅原文太 「トラック野郎」役柄から想像できぬ「品」感じた

 任侠映画のスターだった菅原文太さんの死は、個人的な付き合いもあったことから、ノンフィクション作家の佐野眞一氏にとって衝撃を受ける出来事だった。亡くなる約4週間前に沖縄で見た菅原さんの最後の様子を、佐野氏がつづる。

 * * *
 文太さんの姿を最後に見たのは、死の約4週間前の11月1日、那覇市の沖縄セルラースタジアム那覇で行われた沖縄県知事候補者の翁長(おなが)雄志1万人支援集会だった。

 文太さんは2014年1月にPR誌の対談で会ったときよりかなりやつれて見えた。だが、応援演説は迫力満点だった。

「仲井眞(なかいま、弘多)知事は沖縄の人々を裏切り、公約を反故にして、辺野古を売り渡した。古い映画だけど『仁義なき戦い』に、山守っていう裏切り者の親分が出ていたのを覚えていらっしゃる方もいるかな? 映画の最後で俺は『山守さん、弾はまだ残っとるがよ』と言うんだけど、それをまねして言えば『仲井眞さん、弾はまだ一発残っとるがよ』と、ぶつけてやりたい」

 会場は万雷の拍手喝采の渦に包まれた。このとき翁長氏の当選が事実上決まった。文太さんには、ぽっと出の政治家のような大衆受けを狙った卑しさはまったくなかった。素顔の文太さんには「トラック野郎」などの役柄からは想像できない「品」を感じた。

 その言動には出演作の役柄を含めて、幕末から戦後まで続く歴史の等高線が刻まれた身体性があった。その記憶が文太さんの死で日本人の中から薄れていくのが残念でならない。彼の死は、日本が等高線も身体性もない閉塞社会に突入したことを象徴しているように見える。

 2014年末の衆議院総選挙で、自公勢力は楽々と定数の三分の二議席を突破した。改憲を発議できる議席数である。

 特に憂えるのは、投票率が52.66%と戦後最低だったことである。この数字は、魅力ある政治家がいなくなったことと、共産党を除いて野党らしい野党がなくなったことを物語っている。維新など“第三極”の政策を見ても、与党だか野党だかわからない。

 2015年の日本はこうした正体不明の政治家連中が結集して、文太さんが恐れた戦争ができる国に着々と近づく社会になるだろう。

 歴史の等高線を失って何もかもフラットになった社会ほど退屈で恐ろしいものはない。それは「仁義なき戦い」の冒頭に流れる不気味でダイナミックな音楽にも共通する荒々しい改革のエネルギーを失った、権力者の意のままになる社会の別名だからである。

※SAPIO2015年2月号

関連記事

トピックス

高校時代の安福久美子容疑者(右・共同通信)
《「子育ての苦労を分からせたかった」と供述》「夫婦2人でいるところを見たことがない」隣人男性が証言した安福容疑者の“孤育て”「不思議な家族だった」
活動再開を発表した小島瑠璃子(時事通信フォト)
《輝く金髪姿で再始動》こじるりが亡き夫のサウナ会社を破産処理へ…“新ビジネス”に向ける意気込み「子供の人生だけは輝かしいものになってほしい」
NEWSポストセブン
中国でも人気があるキムタク親子
《木村拓哉とKokiの中国版SNSがピタリと停止》緊迫の日中関係のなか2人が“無風”でいられる理由…背景に「2025年ならではの事情」
NEWSポストセブン
トランプ米大統領によるベネズエラ攻撃はいよいよ危険水域に突入している(時事通信フォト、中央・右はEPA=時事)
《米vs中ロで戦争前夜の危険水域…》トランプ大統領が地上攻撃に言及した「ベネズエラ戦争」が“世界の火薬庫”に 日本では報じられないヤバすぎる「カリブ海の緊迫」
週刊ポスト
ケンダルはこのまま車に乗っているようだ(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《“ぴったり具合”で校則違反が決まる》オーストラリアの高校が“行き過ぎたアスレジャー”禁止で波紋「嫌なら転校すべき」「こんな服を学校に着ていくなんて」支持する声も 
NEWSポストセブン
24才のお誕生日を迎えられた愛子さま(2025年11月7日、写真/宮内庁提供)
《12月1日に24才のお誕生日》愛子さま、新たな家族「美海(みみ)」のお写真公開 今年8月に保護猫を迎えられて、これで飼い猫は「セブン」との2匹に 
女性セブン
新大関の安青錦(写真/共同通信社)
《里帰りは叶わぬまま》新大関・安青錦、母国ウクライナへの複雑な思い 3才上の兄は今なお戦禍での生活、国際電話での優勝報告に、ドイツで暮らす両親は涙 
女性セブン
東京ディズニーシーにある「ホテルミラコスタ」で刃物を持って侵入した姜春雨容疑者(34)(HP/容疑者のSNSより)
《夢の国の”刃物男”の素顔》「日本語が苦手」「寡黙で大人しい人」ホテルミラコスタで中華包丁を取り出した姜春雨容疑者の目撃証言
NEWSポストセブン
石橋貴明の近影がXに投稿されていた(写真/AFLO)
《黒髪からグレイヘアに激変》がん闘病中のほっそり石橋貴明の近影公開、後輩プロ野球選手らと食事会で「近影解禁」の背景
NEWSポストセブン
秋の園遊会で招待者と歓談される秋篠宮妃紀子さま(時事通信フォト)
《陽の光の下で輝く紀子さまの“レッドヘア”》“アラ還でもふんわりヘア”から伝わる御髪への美意識「ガーリーアイテムで親しみやすさを演出」
NEWSポストセブン
ニューヨークのイベントでパンツレスファッションで現れたリサ(時事通信フォト)
《マネはお勧めできない》“パンツレス”ファッションがSNSで物議…スタイル抜群の海外セレブらが見せるスタイルに困惑「公序良俗を考えると難しいかと」
NEWSポストセブン
中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン