その点、本書では後半、組合側の素直な意見(?)も読めるのが面白い。百社以上が加盟する組合には、〈のっぺらぼうのタオルなんか、誰も買うわけがない〉と戸惑う者も多かったのだ。
「白一色だと工務店か何かの名前が入った粗品を連想したんでしょうね(笑い)。特に色柄織りの技術も高い今治では70年代以降、ブランドタオルの〈OEM〉を問屋から受注してきた経緯があり、素でも勝負できる品質にまず当事者に気づいてもらう必要があった」
佐藤氏はこの時、〈ごはんのおいしさを伝えるのに、カレーをかける必要がありますか〉と白に拘る理由を説明し、組合員の理解や意思統一に何より心を砕く。
「実は僕への依頼も組合の総意ではなかったらしく、えっ、そっちが頼んどいて今更それはないよって(苦笑)。そんな中、『とにかく今治に来てほしい』と言われ、足を運んだのが結果的には正解でした。一軒一軒工場を回り話を聞くうちに、今治そのものをブランド化する僕の構想に乗り気でなかった社長さんも徐々に賛同してくれて。『僕は政治家か?』とは思いつつ、いい勉強になりました(笑い)」
〈タオルソムリエ試験〉の創設や、白いタオルの真価に直に触れてもらう『今治タオル南青山店』の開店。また、限られた予算の中で「唯一のメディア」と位置付けたタグは品質保証の他、有事の際のトレーサビリティ機能も備え、2006年時点では6200枚だったタグの出荷数は、2013年には5442万枚まで伸びた。つまり高品質を謳う以上、品質管理体制のデザインも重要な要素で、ブランドとはすなわち「約束」に他ならない。