「結局ブランドも作るより守る方が難しいんですね。長年の信用が一夜で綻ぶ例は幾らでもあるし、うまくいくほど慢心や〈ブレ〉が出るのは、むしろ人間らしいとも言える。幸か不幸か今治タオルも今では偽物が出回るほど人気で、だから約束を守るための体制作りが、具体的に必要なんです。
今治も妙なゆるキャラを考えてみたり、一時は正直ブレた(笑い)。むろん却下しましたけど、当事者ほど自分の強みを見失いがちなのは、どの企業も同じです」
その時の佐藤氏の苦言が面白い。〈まじめで生徒会長を任されているような生徒が、急に漫才をして笑いを取ろうとしたって、全然おもしろくないでしょう?〉〈今治タオルは実直な生徒会長のままでいいんです〉
「僕は小1で始めた剣道が、ブランディングの仕事にも生きている気がするんです。まずは礼節を重んじ、軸がブレないこと。相手の力を見極め、それを使って勝つ武道の基本を、理屈抜きに叩き込まれた。目先の利益だけを追求する相手と組んでもいい仕事はできませんし、その力を今度は日本のために生かしたいんです」
佐藤氏は昨年、内閣府に設置された「選択する未来」委員会で〈『日本ブランド戦略二〇二〇』〉と題した提言を作成。その成功例に挙げたのが、今治の奇跡だった。
「個々のコンテンツは優秀でも、それを繋ぐ〈コンテクスト(文脈)〉がないのは日本も同じ。今治の成功も数字にすれば〈わずか二パーセント〉なんです。国内のシェアが2009年の9%から2013年の11%に伸びただけで今治は復活を遂げ、活気を取り戻した。そう考えれば日本だって、元気になれないはずはないでしょう?」
〈いいモノをつくっているだけでは売れない〉現状を、本質を掴み、〈存在意義を「きちんと伝える」〉ことで、〈いいモノをつくっているからこそ売れる〉に変えること。それこそが佐藤氏や今治の人々が、今の日本に最も伝えたいことなのだろう。
【著者プロフィール】佐藤可士和(さとう・かしわ):1965年2月東京生まれ。多摩美術大学卒。博報堂を経て2000年に(株)サムライを設立。ホンダステップワゴンやSMAP等のアートワークで注目され、ユニクロ、楽天、セブン-イレブン等のトータルブランディングや、ふじようちえん、カップヌードルミュージアムのプロデュース、国立新美術館のシンボルマーク等で活躍。現在慶應義塾大学環境情報学部で「未踏領域のデザイン戦略」を教える他、多摩美大客員教授。171cm、58kg、AB型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2015年1月30日号