――会社経営において必要なのは、どんな資質だと思いますか。
井上:パターン認識の力でしょう。これはお金儲けがうまい人に多いですね。堀江貴文さんがお金儲けがうまいのは、パターン認識の力が超越しているから。この現象は、どこかで見たことがある。これはあれと同じだと即座に気がつく能力が卓越しているんです。
孫正義さんもそうだと思います。だって、14年前の売上がほぼゼロだったアリババに、肝心の当事者が遠慮しても20億円ぽんと出して、14兆円に化けさせるんだから。他の人にはわからないパターンを見つけていたのだろうと思います。
――パターン認識の力は養えるものなのでしょうか?
井上:ある程度までは可能でしょう。でも、ある一線を超えようと思うと能力の部分も大きい。逆にこの能力を持っている人は、人間関係ですら数値で認識しがちで世間の反感を買うこともある。私の場合、現実の人間関係そのものが少ないので実生活で人を数値化しませんが、評論家気質のオタクなので共通するところはあります。
――そういった分析気質ではない経営者はありえますか?
井上:アップルのスティーブ・ジョブズをはじめ、伝説の経営者と言われる人は分析の人ではなく、創造の人たちが少なくないと思います。クリエイターなんですね。自分が考えた製品によって世の中が変化し、新しくなる物語が見えていた。私はそちらではないですね。
――でも、マンガを描いているのだからクリエイターなのでは?
井上:エッセイマンガしか、たぶん描けないので違うでしょう。日中関係をキャラに置き換えてマンガにしたり、それなりの絵は描けるけど、それはテクニックであって、すごく旨い素晴らしい絵は描けない。まったくの白紙からリアリティのあるキャラクターを生み出せないんです。『中国嫁日記』は、当たり前ですが実際にその人がいて生活している日常をベースにしているから、リアルな物語を感じてもらえるんです。
――値段など不安もありますが、会社経営は改善していきそうですね。
井上:もしも、これから銀十字社という会社から出るフィギュアが一体も売れなければ、お先は真っ暗です。でも、80万部作家が無一文になって、その過程をマンガにするのなら、うちの商品に興味を持ってもらえるのではないか。そこに光明があるのではと思っています。
あと、私が監修する限りそんなにひどいフィギュアにはならない自信があります。それは、今までの同人フィギュア、とくに、5年以上前につくった最後の作品、ファイナルフィギュアの出来を見てくれれば納得してもらえるかと。あのころよりも技術力も上がっていますから、手もとに置いて満足できるフィギュアをつくっていきますよ。
■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』4巻(KADOKAWA エンターブレイン)