中国嫁日記一覧
【中国嫁日記】に関するニュースを集めたページです。

子供をバイリンガルにする育て方 誤るとルー大柴になる
『中国嫁日記』著者の井上純一さんは、昨年11月に生まれた日中ハーフの息子に、日本語と中国語の二言語を使いこなす人になってほしいと願っている。そのため、いつもエッセイ漫画について語り合うトークショーの席上で、ゲストの『嫁はフランス人』著者で保育園に通う息子がいるじゃんぽ~る西さんに、どうやったら子どもがバイリンガルに育つのかについて教えを乞う場面がみられた。そこで語られた西さんの子育て体験は、バイリンガルは一日にしてならず、両親の努力が必要であること教えてくれた。 息子が生まれた直後、西さんは国際結婚の先輩にあたる夫婦から、子どもには基本的に母語で話した方がよいと言われた。「自分の母語と外国語のちゃんぽんで話さないように言われました。うちの場合は日本人とフランス人の親なので、フランス人の親はフランス語で話しかけ、日本人の親は日本語で話しかけることを徹底する。子どもは人によって言語を分けることを覚えるようです。だから、一人の人が複数の言葉を混ぜて話すと、混乱するらしいんですよね。混乱させると、子どもが言葉をちゃんぽんにして話すと聞きました」 パートナーの母語が理解できて話せても、子どもに向かって複数の言語で話しかけてはいけない。もし複数言語を混ぜて話しかけると、その状態が普通だと思い、異なる言語をごちゃまぜにした、ちゃんぽんな話し方をするようになる。たとえば、タレントのルー大柴のような「togetherしようぜ」「Sundayにはどこへいく?」を普通に話すようになりかねない。 きちんと使い分けるバイリンガルになるようにと、西さんは日本語、妻はフランス語で息子に話しかけることを心がけた。その結果、息子も父とは日本語で、母とはフランス語で話すようになったのだが、保育園へ通い始めると使い分けが不完全になってしまった。西さんが続ける。「僕はフランス語が話せません。そのため、妻は僕に日本語で話しかけます。そんな状態なので家庭の中では日本語が多いし、日本で育てば日本語が多い環境ですが、それでも、妻がフランス語で話しかけると息子もフランス語で話していました。ところが、日本の保育園へ行くようになったら、妻がフランス語で話しても日本語で答えるようになったんです。言われていることは100%理解しているのに、答えは日本語になってしまいました」 フランス語は理解するが日本語だけを話す状態になったと聞いて、井上さんは「その状態は、バイリンガルになっていないですよね?」と心配そうだ。その言語を聞いて理解できていても話せないのでは、バイリンガルとは呼べない。しかし、再び状況が変わるタイミングがやってきたと西さんは言う。「フランスから妻の妹が我が家に来て、息子の話す言葉がまた変わりました。彼女にはフランス語しか通じません。息子は最初、彼女に日本語で『これ見て!』など呼びかけていました。でも、理解してもらえない。フランス語で話しかける妻とは日本語でも理解してもらえるので、同じつもりだったのでしょう。でも伝わらないから、息子も考えて、フランス語を話すようになりました。最初はぎこちなかったのですが、2週間も経つと、すっかり以前のバイリンガルな状態に戻りました」 生まれてから家族だけで過ごす期間に複数言語を使い分ける環境に置かれることと、いったん保育園などの社会に出て周囲の環境に馴染んだタイミングでふたたび使い分けを学ぶこと、この二度の機会が、バイリンガルに育てるには必要なようだ。 国際結婚カップルの間に生まれたハーフの子どもなら、バイリンガルになるだろうと安直に考える人は少なくない。しかし実際には、両親の努力によって培われた末、バイリンガルに成長できる。空から落ちてくるように手にしていると思われるものも、実は教育の成果なのだ。
2017.01.15 07:00
NEWSポストセブン

中国嫁日記作者、日中ハーフとして生まれた我が子に願うこと
約2年、中国を拠点に仕事をしていた人気マンガ『中国嫁日記』作者の井上純一氏が、ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)さんとともに日本へ戻ってきた。そして11月、生まれる前につけた仮の名前バオバオ(宝宝)ちゃんのお父さんになっていた。子どもが生まれたことで変わったこと、日中の間に生まれた子どもに望むことを井上氏にきいた。 * * *──中国人の月さんが日本で出産したことに驚きました。日本の感覚だと、出産する人は実家に帰ることが多いので。井上純一(以下、井上):日本へ戻ると決めたあとに妊娠がわかりました。だから僕は、日本に帰るのをやめるつもりでいました。妊婦が飛行機に乗ると危ないんじゃないかとも思いましたし。でも、逆に月からは日本で産みたいといわれました。──井上さんの本音としては、中国と日本、どちらで子育てをしてみたかったのですか?井上:中国で育ててみたかった、というのが本音です。子どもを育てると、中国人の生活をもっと知ることができるだろうと思っていたので。たとえば、中国がどういう教育をするか、友だちと何を話すのかということを知りたい気持ちがありました。──月さんは、なぜ日本で産んで育てたいと考えたのでしょうか?井上:もともと、中国で暮らすことを前提としていなかったんです。実際、多くの中国人から「日本で子どもを育てられるのはうらやましい」と言われます。やはり中国の大気汚染の状態や、健康、食料の問題が子どもにはよくないと考えているようです。中国では、ちょっと金持ちになると必ず海外へ逃げちゃうくらいです。中国で子育てをしたくないからだと聞いています。──出生地主義をとっている米国籍が欲しくて、妊娠が分かってから米国へ行こうとする中国人富裕層が少なくないと聞きます。井上:出産のためだけに香港へ来て、子どもに香港籍をとろうとする人もいます。だから、妊婦は香港の空港で乗り継ぐだけでも手続きが大変なんですよ。飛行場へ行くだけだと証明して、面倒な手続きをたくさんしないとならない。そのため、日本への移動はいつも香港経由で移動するのですが、中国を引き払ったときは広州から日本への直行便に乗りました。──初めての妊娠と出産は、どんな体験でしたか?井上:自分が妊娠・出産するわけではないですが、すべてが初めてのことだらけでした。何かの参考になるかと思い、事前にたくさんの育児マンガを読んだんです。一通り全部読んだのですが、びっくりしたことに何の役にも立ちませんでした。描いてあることが、あまりにもケースバイケースで、実際にはそのときにならないとわからないことばかりでした。 たとえば、産むとき会陰切開をするので、いつまでもとても痛い。だから真ん中が丸く空いている痔の人向けの座布団を1か月も使ったとある育児マンガにはありました。それを読んだあと、買っておいた方がいいのではとすすめたら、月はいらないと言う。出産後、実際にいらなかったですね。月が痛いと言っていたのは2日、3日で済んで、普通のクッションに座って不自由ありませんでした。人によるんですね。──出産にも立ち会ったのですか?井上:立ち会いました。ツイッターでもつぶやきましたが、こんなに大変な思いをして生まれてくるのに、殺人とかやっちゃだめだよと大げさでなく思いました。すべてのお母さんにありがとう、戦争とかなくなれ、と本気で思いました。こんなに大変な思いをして産んだのに、理不尽に死ぬのは親に悪いだろう、普段なら考えもしないスケールのことが思い浮かびました。 ──初めて息子のバオバオちゃんを抱いたときは、どんな感じでしたか?井上:最初は、なんだかよく分からない感じでした。──でも、かわいいんですよね。井上:絵を学んでいる人間は全員そうなんですが、美術的な訓練、デッサンなどをやると、絶対的な美の意識みたいなものがあるんですよ。絶対音感みたいな、何が美しいかという感覚が培われる。だから、その美意識の基準でいけば、自分の子どもがそんなに可愛くないことは頭ではわかるんです。生まれた瞬間に、あご以外は僕にそっくりだとわかりましたし(笑)。でも、それとは別に世界一、かわいい。──それでマンガでのバオバオちゃんも、マンガの井上さん似ではなくなるんですね。井上:この子が世界一可愛いわけではないことはわかっているが、世界一かわいい。これはもう、しょうがない。子どもを持つと必ず思うことだし、みんな親バカになるんです。この「かわいい」という気持ちを表現するためには、僕と同じ顔にしちゃいけないんです(笑)。そして、そうすることはマンガとして正しい。この、うちの子がかわいいという感情を味わって初めて、ありとあらゆる写真、PCやスマホの壁紙を自分の子どもにするのがわかりました。──毎日が、不思議な感覚につつまれた子育てになっていそうですね。井上:ただ、いま思うのは、いま見る赤ん坊が、これから将来的に、皆と同じように歩いたり喋ったりするようになるというのが不思議でならない。人間の部品みたいなものなので。プラモデルでいうなら、ランナー(※複数の部品がついている枠)についている状態。これが果たして、組み上がると車や飛行機など、完成品になるのだろうかと半信半疑な感じに近いです。 たくさんの育児マンガを読んでも、なぜ作中の人たちはこれほど感動するのかについてわからなかった。でも、今ならわかる。これは、ボケの時間が長いからです。本当だったら、今すぐにでも、お前はなんでもぞもぞもごもごしているのかとか、何でそんなに中途半端に万歳をしているのかとか、そういうことを親は子どもにツッコミたいんだけれど、子どもはそれがわからない。そして長い時間を経て、ようやくツッコミができる相手に成長する。そりゃ、こんなに長く時間がかかったら、みんな、感動しますよ。──子供が生まれて、自分の生き方も変わりそうですか?井上:保険に入ってみたりしました。これから少なくとも20年くらい、彼が20歳になるくらいまでは元気でどうにかしないといけないという気持ちでいます。──お父さんになるまで、時間がかかりましたね。井上:やっと授かりました。結婚して6年、子どもを作ろうと思ってから5年も経ちました。ずいぶん時間もかかり、不妊治療もしました。念願の子どもがやってきてくれて、うれしいですよ。これから子育てに関して、こんなはずじゃなかったという思いすることもあると思いますが、いまは感謝しかないです。よく、うちに生まれてくれたなとしか思わないです。──将来、お子さんにしてほしいことはありますか?井上:これは度が過ぎた願望なのかもしれないけれど、中国語と日本語を解する人間になると思うので、そのうえで漫画を描いてほしい。漫画じゃなくてもいいけれど、何か表現する人になってほしい。なぜなら、僕がその描かれたものとそれを受け取る人たちを見たいから。俺が中国人だったら、間違いなく中国人に向けて漫画を描いていたけれど、実際の自分はできないから、息子には二つの国へ向けて描いてほしいです。 ──やはり中国はこれからも見逃せない国ですか?井上:これから先は、残念だと思う人もいると思いますが、中国の時代なんですよ。規模がでかいということ、人数が多いこと、これはしょうがない。地球上の4~5人に1人は中国人なんですよ。勝つ負けるじゃなくて、僕たちは中国を見守っていくしかない。 とはいえいずれ、バオバオが死ぬまでには中国共産党はなくなると思っています。俺が死ぬまでにはたぶん間に合わない。中国共産党が滅びるのを見られるのは純粋にうらやましい。その様子を是非、バオバオには漫画にしてもらいたい。──米国大統領にドナルド・トランプ氏が決まるなど、激動の時代に生まれてきましたね。井上:これから、大変な時代になると思います。その中を、中国語と日本語ができる人間として関われる、こんな面白いことはないですよ。中国人がどう反応しているのか、みてもらいたい。ということで、なるべくバイリンガルに育てようと思っています。じゃんぽ~る西さんが描いている『モンプチ 嫁はフランス人』によれば、嫁さんがフランス語、自分が日本語を喋るのを子どもの前で徹底的に守ると、バイリンガルになるそうです。中途半端に混ぜると、どちらの言語も中途半端になるとか。 どうにかして子どもをバイリンガルに育てたうえで、いい学校に行ってほしいということよりも、絵がかけて、マンガを描けるようになってほしい。中国人に対してマンガを描いて、彼らがマンガをどう受け止めているのかを日本人に紹介してほしい。そういう人になるといいな。きっと面白いと思います。何より、やっぱり中国共産党が滅びるのを見られるのは、うらやましいですよ。●井上純一(いのうえじゅんいち)/1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住だったが、2016年に日本に戻った。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊『中国嫁日記』6巻(KADOKAWA エンターブレイン)が発売中。
2017.01.04 16:00
NEWSポストセブン

ネットで中傷した人を訴える場合、裁判は2度ある
2014年から中国を拠点に仕事をしていた人気マンガ『中国嫁日記』作者の井上純一氏が、ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)さんとともに日本へ戻ってきた。2015年秋に発覚した、フィギュア部門をまかせていた元ビジネスパートナーによるトラブルは回収できそうなのか。気になるその後と、新たにすすめているネットにおける名誉棄損裁判について、その進め方などについて井上氏にきいた。 * * *──中国を引き上げる決心をしたのは、何が原因だったのでしょうか?井上純一(以下、井上):フィギュア部門から撤退することも理由の一つですが、最大の理由は、家賃が高くなったことです。一年半で家賃が2倍になったんですよ(苦笑)。 僕たちが住んでいたのは双龍(シャンロン)という深センの地下鉄の終点駅そばでした。東京でいうと、新宿から京王線に乗って終点近く、多摩センターくらいの感じだと思ってもらうと近いです。入居した当時は土地が安くて家賃も安かったんです。もう中心部では土地バブルが起きていたのですが、それがどんどん田舎へも広がっていき、とうとう僕らが住むところにもやってきた。──2年もたたずに家賃をそんなにあげられるのですか?井上:売れると思っているから強気です。5000万円以上で売るから出ていってくれといわれて引っ越しを決めたけれど、誰も買わないだろうと思っていました。土地の価格が上がるのを見込んで、売りたい人ばかりになっていましたから。結局、僕が住んでいたところも売れないままでした。──とはいえ、中国だと不動産を買うといっても期限付き使用権ですね。井上:その期限は永遠に伸びると思いますよ。なぜかというと、期限が過ぎた土地を国へ返却させると、土地の売買が滞るからです。経済を停滞させないために、土地使用権の期間を徐々に伸ばすと中国人は信じています。──日本に拠点をもどしたということは、行方不明になっている会社の資金の回収がしやすくなるのでしょうか?井上:謎を解明するのは難しい。何しろ、知っているはずの人間が海外に住んでいるので、裁判を起こすのも難しい。──以前、お話をうかがったときは、生きているのか死んでいるのかもわからない。連絡がとれないと話されていましたが?井上:生存の確認はできています。でも、裁判というのは、相手のいるところが確実でなければ、そもそも起こせないことになっているんです。ましてや、海外に住所があると、ほぼ不可能です。──裁判をあきらめたのでしょうか?井上:違います。まだあきらめていません。でも、諦めることになるかもしれない。逆に向こうが俺のことを訴えてくれれば相手の住所が確定するので、話がすすみそうなんですけどね。ひょっとしたら、向こうの住所かもしれない場所が少し前にわかったんですよ。──調査会社に頼んだんですか?井上:いえ、SNSです。会社の金で買ったはずのおもちゃを日本へ送った送り状の写真を、交際相手がSNSにアップしちゃったんです。ところが、そこは裁判ができない住所だった。そこは、複数の反社会的な企業が使っていることで知られるレンタルオフィスの住所だったんです。そんなところに住むことはできないですよ。なんでそんな住所におもちゃを送ったのか、あまり詳しく知りたくないですね。闇金から、金を借りちゃったんですかね。 まだ一緒に会社を運営していたころ、いまは行方知れずの元ビジネスパートナーが「知り合いがやっている金融会社だから特別に優遇してくれる。●●という商品が発売されればすぐに返せるから」と闇金から金を借りようとしたことがあったので、止めたんです。でも、勝手に個人で金を借りちゃっていたらしいんです。そのときに、ご縁ができちゃったんですかねえ。──会社のお金を取りかえすのも、簡単にはいかないですね。裁判を起こすのがそんなに制約の多いものだったとは。井上:その一方で、意外なことで裁判をすすめることになりました。ネットで好き勝手に書いても、見つからないし裁判になることなんてないと思っている人がいますが、そんなことはないですよ。 ──ネット上の書き込みをめぐって裁判が進行中なのですか?井上:そうです。僕に対する誹謗中傷を書いている人が数人いて、僕の会社の取引先の会社についても根拠がない中傷を書いていた。自分では放っておいたのですが、取引先から「会社の信用上困るので訴える」といわれました。そういわれると、当事者である自分が「訴えてくださいよ」とだけ言ってひとまかせにするわけにもいかない。「じゃあ、自分も訴えます」という流れで、いま裁判をしています。──匿名で書き込んでいる誹謗中傷の場合、相手を特定するのが難しそうですね。井上:ネットの名誉棄損における裁判は、同じ内容で2回、裁判をしなければならないのでお金も時間もかかります。でも、やって無駄はないと思います。──2回の裁判というのは、どういうことでしょう?井上:1回目の裁判は、誹謗中傷が書きこまれたページを持っているサーバーに対して行います。発信者情報の開示請求です。その裁判がおわると、初めてその人のIPアドレスがわかり、住所がわかり、そこで初めて、誹謗中傷した本人を相手に対する訴訟、2回目の裁判になるんです。──確かに、同じ内容で2回の裁判をすることになりますね。井上:相手にたどりつく前に同じ内容で一回、裁判に勝っているという言い方もできます。だから、その次の2回目の裁判で、書き込んだ本人を相手に負けることはほぼないんです。だいたい、1回目の裁判というのはプロバイダーやサーバーを運営している会社、大企業が多いのですが、そこの法務部がでてきて、会社の顧問弁護士が出てきてしっかり仕事をしている。それなのにこちらが勝てるということは、よっぽど旗色がはっきりしているからです。──訴えられた側は、サーバー会社が負けた後、初めて自分が被告であると知るのでしょうか?井上:もっと早くわかります。最初はプロバイダーから、「●●という人から、あなたが名誉棄損を行なっているので、あなたの情報を開示してくださいと命令書がきました。どうしますか」と通知がきます。それに「開示しないでください」と返事をすると、プロバイダーは「裁判をします」と連絡し、ここから1回目の裁判が始まります。 そしてプロバイダー側が負けたあと「裁判に負けたので、あなたのIPは開示されました」という連絡がきます。そして、原告側弁護士から「訴えます」と連絡がくるんです。この時点で、普通は弁護士を雇い、裁判ではなく示談にしようとします。なぜならその裁判は、ほぼ同じ内容ですでに1回、裁判が行われていて負けているからです。そして2回目の裁判で争って負けると、賠償金だけでなく開示費用、裁判費用もすべて払わないとならないので損ばかりだからです。──その口ぶりだと、井上さんが訴えている相手は示談ではなく裁判を選んだようですね。井上:なぜ争うことを選んだのかわかりません。取引先が訴えた相手は別の人でしたが、その人はプロバイダーが負けたらすぐ、示談の申し込みをしました。それでも100万円以上の額を払ったと聞いています。ひょっとしたら、もし負けてもお金を払わず、該当の箇所を削除するだけでなんとかなると思っているのかもしれません。勝手な思い込みですよね。 同じように勝手に思いこんで、これは合法なはずだと人の情報をネットで公開したのでしょう。でも、アナログなら簡単にわかる情報でも、用途が違うとプライバシーの侵害になります。有名な裁判の判例で、電話帳をスキャンしてネットにアップしたことがプライバシー侵害と認定されています。公衆電話に置きっぱなしになっている電話帳も、ネットにアップするとプライバシー侵害なんです。──井上さんの絵にトレース疑惑をかけた人もいました。トレースについては、検証していたとしても、名誉棄損にあたりますか?井上:検証したとしても名誉棄損になります。人の意見を参照しているのではなく、その人の言葉として「トレースだ」と言ってしまっているならアウトです。僕はトレースをしていないし、向こうは裁判でトレースをしていることを証明しないとならないけれど、線のないフィギュアの写真からトレースしたとか言いがかりがほとんどで、これをトレースの証明にするのは難しいでしょう。──それでも、何かというと「トレパク(トレースしたパクり)だと言いたがる人はネットに多いですね。井上:常に思うのですが、なんでトレースするのかわけがわかりません。何かを写すという行為は普通に描くのよりずっと遅くなるからです。見て描く写生ですら遅くなるのに、手本を下に敷いて描いたらもっと遅くなって不便きわまりないです。何もない白紙から、ゼロから絵を描く人ならすぐにわかる感覚で、実際に僕は何度もその様子の動画をネットにアップしています。 きっと絵が描けないからわからないのでしょう。胸や腰など、描いていて一番、面白いところを、なぜトレースしなくちゃいけないのか。まったく理解できないです。──ネット上の誹謗中傷や炎上をみていると、ものすごくたくさんのひとが大騒ぎしているようにみえるのですが、裁判をしてみると少数なんですね。井上:僕の誹謗中傷をネットに書いている人は、人数にすると本当に少ない。片手で数えられるくらいです。実際、ネット炎上の研究によれば、ネット世論を形成するネット上の書き込みは、ネットに接続している全体のわずか0.5%にすぎないといいます。今年、まるで日本中が激怒しているかのような騒ぎになった五輪エンブレム事件のときは、実際にネットに書きこんでいたのは全体の0.4%しかないという調査もあります。──ずいぶん少ないですね。井上:その研究調査結果によれば、日本中が揺れたようにみえる五輪エンブレム事件も、中心人物は60人程度が暴走した結果ではないかと推測されています。だからもう、ネット炎上は意味がないことが常識になる日も近いんじゃないでしょうか。そして、ネット炎上を起こしても、損をするばかりで得をしないと世間に知れ渡るようになるでしょう。●井上純一(いのうえじゅんいち)/1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住だったが、2016年に日本に戻った。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊『中国嫁日記』6巻(KADOKAWA エンターブレイン)が発売中。
2017.01.02 16:00
NEWSポストセブン

中国嫁日記作者「フィギュアやめます。漫画のほうが儲かる」
人気マンガ『中国嫁日記』作者の井上純一氏は、ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)さんと夫婦仲良く順風満帆に暮らしているはずだった。ところが2015年秋、フィギュア部門をまかせていたビジネスパートナーによるトラブルが発覚、多額の法人税滞納、未払い、使途不明金のため井上氏は金策に追われた。その後、フィギュア部門も井上氏が取り仕切り、いくつか新商品も発売された。事業再建はうまくいっているように見えたのだが、中国を引き払い、来年にはフィギュア事業をたたむという。何が起きているのか、井上氏にきいた。 * * *──今回、取材申込をしたときメールアドレスが不達になって驚きました。ひょっとして会社が大変なことになってしまったのでしょうか?井上純一(以下、井上):会社は大丈夫なんですが、ドメイン所有のお金を払っていなかったため使えなくなったんです。再取得しようとしたら、すでにドメインが外国のゲーム会社に買われていたので使えなくなり、メールアドレスも消えました。これも、元ビジネスパートナーだったK水が残していった問題のひとつです。──昨年1月にお話をうかがったときは、法人税が滞納金ふくめて約1500万円になっていて、会社の預金がほとんどなくなり、自転車操業で日々の生活費はブログのアフィリエイト収入でまかなっていたという話でした。その後、法人税は納められたのでしょうか?井上:延滞金のぶんはまだですが、元金は払い終えました。これでやっと、税金に利子がつかない生活になりました。あの当時と比べると、生活はずっと楽になっています。──会社の業績は上向いているといえるのでしょうか?井上:失敗はしなかったことが、会社としては大きかったですね。会社にお金がないとわかって、借金や税金の滞納がわかってから手がけたフィギュアは、どれもこれも売上がすごくよい成績ではなかったけれど、逆にいえば悪くもなかった。そのなかで、もっとも売れ行きがよかったのは艦隊これくしょんの「那珂ちゃん」フィギュアでしたが、それも爆発的にうまくいったわけではありませんでした。──業績好調とは言い難いのでしょうか?井上:フィギュア業界は、いまどこもとても厳しい。その理由は何より、全体的に完成フィギュアという商品が売れなくなってきていることにあります。正直、うちのような小さいメーカーだと、もう、やっていく理由はありません。いま進行している企画が終わったら、もうフィギュア製造販売はやめます。僕は社員をかかえず、一人きりで描いているという事情もありますが、漫画のほうが儲かります。一年前には想像もしていなかった事態です。──2014年から拠点にしていた広東省深センを引き上げ、日本に戻ってきたのはフィギュア部門をたたむことが理由なのでしょうか?井上:いちばんの原因は家賃が急激に上がったことですが、仕事の都合もあります。──とはいえ、井上さんが今年5月に予約販売した艦これの「那珂ちゃん」フィギュアは人気キャラクターです。予約好調に見えましたが、それでも厳しいのでしょうか?井上: 正直なところ、那珂ちゃんはもっと売れると思っていたので、反応の鈍さに驚きました。それでも同業者からは「その価格でこれだけ売れれば大ヒットだ」といわれました。確かに一体1万7千円は高額な部類なのでしょうが、今やフィギュアは一体1万円超が当たり前です。でも、最近のフィギュアの売れ方をみていると、1万円を超えた途端に売れなくなります。だから、那珂ちゃんを買ってくれたお客さんは、本当に大決心してくれたんだと思います。──オタク経済圏は数十億円の市場だと期待された時期もありましたが、そう楽観的でもなくなっているのでしょうか?井上:お金に余裕がなくなっているからなのか、使うときはものすごく慎重です。今回の那珂ちゃんの場合、予約開始直後は反応が悪かったですね。予約終了時間が近づくにつれ、しり上がりによくなって持ち直しました。今は、人気キャラクターのフィギュアであっても、締め切り間際に買う人が多い。最後の最後まで悩んで、最後の最後で買うと決める。その様子をみて俺も買おうと決心する。この売れ方は、最近の傾向だと思います。──とはいえ、オタク部屋といえばお気に入りキャラクターのフィギュアが飾るのが定番という印象ですが、フィギュアを飾らなくなっているのでしょうか?井上:最近はキャラクター人気の入れ替わりがすごく激しいので、お客さんからみると、そのたびに1万円超するフィギュアは買っていられないという事情もあると思います。製造販売する側からみると、人気が出たキャラクターを開発しても、商品化できたころにはブームが終わっていることが多いため、割にあわない商売になってしまいました。 ひとつのフィギュアを開発するのに半年以上かかります。でも、それではキャラクター人気の旬を逃してしまう。大手メーカーの場合、たとえばアニメ化するなどの事前情報をもとに、アニメ制作そのものに出資するなどして、世間には公表していないフィギュアを先行して開発するんです。資本力があるからできることですが、ヒットするかどうかは運次第です。──大手といえども厳しいのでは、中小メーカーはどうやって生き残るのでしょう?井上:うちのような小さいメーカーとしては、なるべくヒット作品を連発して開発費を回収して利益を出さないとならない。ところが、最近はヒットしても利幅が小さい。以前は、フィギュアの製造販売といえばハイリスクハイリターンな賭けで、一度あたるとしばらくやっていける利益が出ました。でも今は、ハイリスクローリターンな賭けになってしまいました。──フィギュア業界が生き残る方法はあるのでしょうか?井上:すごく小さいフィギュアを高額で売るなど、ありえない勝負が必要かもしれません。フィギュアといえば実物の6分の1が普通だったんですが、いまはひと回り小さい8分の1ぐらいが中心です。小さくなっているのは、最も高い金型ではなく樹脂やゴム型でつくれるからです。業界最大手は2頭身や3頭身の小さいフィギュアを主力商品にしています。スケールフィギュアといわれる通常のフィギュアは、収益が悪すぎて、もはやメインではないです。──海外で売るという選択肢は活路にならないでしょうか?井上:販路を持っていれば可能性はあります。でも、小さいメーカーは問屋が存在しない、または高額な中間マージンが発生するので難しい。フィギュア業界の場合、頑張っているところはあるし、他社と比べると儲かっているといえるところもあるかもしれないですが、その会社の前年度と比べると業績がよくないところが多いです。──中国市場ではどうでしょうか?井上:今は勝手にコピー製品がつくられている状態ですが、比較的、高級な偽物がつくられるようになってきたので、中国人の目も肥えてきているのを感じています。だから、中国人に向けてのフィギュアは可能かもしれません。少し安い価格で、日本と同じものを中国人のためにつくるんです。とはいえ、まだ欲しがる人数が少ないので、版権をとっての商売は偽物に圧迫されるので、かなり難しいと思います。 大資本ならば、日本のスタッフで制作する中国向けアニメに出資し、偽物を作る暇がないタイミングでフィギュアを売る。その方法なら中国でもフィギュア販売が可能かもしれません。──たまっていた法人税の元金をすべて支払ったとのことですが、次々とみつかった未払いも精算できたのでしょうか?井上:あとは、僕を信用して「払わないはずがない」と1000万円もの未払いを黙って待ってくれていた工場へ対してだけです。それは、最後のアイテムで全部返します。最後に残った金型の売却が完了すれば、終わります。来年の夏ぐらいまでに、たぶん、何もかもすべて終わると思います。──フィギュアの金型といえば、商品化できていない金型がたくさん資産に計上され固定資産税がかかっていたと昨年、お話されていましたね。井上:その金型はひとつを除いて順次、廃棄しています。廃棄しましたという証明書を作成し、税金を生むだけで儲けに繋がらなかった固定資産は順調に減っています。ひとつだけ、他社、共同開発する金型があります。それは今後、K水問題最後のプロジェクトとして発表する予定です。面白いことになるだろうなと思っています。●井上純一(いのうえじゅんいち)/1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住だったが、2016年に日本に戻った。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊『中国嫁日記』6巻(KADOKAWA エンターブレイン)が発売中。
2016.12.30 16:00
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無一文生活告白の中国嫁日記作者「来夏には負債完済予定です」
人気ブログ『中国嫁日記』の単行本4巻が出版された1月末、作者の井上純一氏は会社の金銭トラブルに遭い80万部も売る漫画家なのに無一文になったと告白した。面白い漫画を描きたくてアル中になった過去を描いた『アル中ワンダーランド』が話題のまんしゅうきつこ氏と6月26日に”不幸に効く”トークライブを開催する井上氏に、現在の”不幸”の状況とまんしゅう氏にも通ずるエッセイ漫画での自分の描き方について聞いた。 * * *――2月掲載のインタビュー時には、経営されている会社のフィギュア部門スタッフが、多額の使途不明金と未払いを発生させて姿を消したというお話でした。なかでも滞納された税金が利息つけて1700万円ぐらいとのことでした。負債総額も調査中とのことでしたが、進展はあったのでしょうか?井上純一(以下、井上):一括で払うのは難しいので、税務署と相談して2回に分けて払っています。1回目は『中国嫁日記』4巻の印税で払いました。2回目は、秋に出る5巻の印税で払い、今年のうちに税金の滞納はなくなる予定です。税務署は優しいですよ。払う意志があれば、こちらの生活が困窮しない程度の的確な支払計画を提案してくれます。税金を払わない人の気が知れないですよ。 負債総額の最終的な計算はまだ続いています。民事訴訟を起こすにはいくつかクリアしなければならないことがあって、そのうちのひとつが被害額。中国の工場への支払い額を確定するための書類再発行に時間がかかっています。銀行振込なら通帳に記録が残りますが、会社に損害を与えた当時のフィギュア部門専従スタッフは、香港の銀行でおろして現金で支払っていたため、工場へ直接お願いしないとなりませんでした。――会社へ損害を与えたのなら、刑事告訴も検討してよさそうなものですが?井上:もちろん、最初は刑事告訴できないかと弁護士に相談しました。すると「数億円なら日本の警察も着手するだろうけど、数千万円程度では難しいですよ」と言われました。国境を越えた大がかりな捜査になるため敬遠されるだろうと。だから民事訴訟を検討することにしました。それでも、国をまたがると必要な証明書類をそろえるのが難しく、民事訴訟もできなくなる可能性があります。 結局、この件は社長である自分が悪いんです。元スタッフの仕事をきちんと確認せず、言われるままに金を出していたんですから。それでも、すべてを明確にするために訴訟はしたいと思っています。――2月のトークショーで、お金を返してほしいという人が現れたと話していましたね。井上:その人は元スタッフに融資したお金を僕に返してもらうつもりできたのですが、会社の現状をお話しして相談した結果、版権を取得してまだ商品になっていないものの開発費の出資が決まりました。そのほうが、確実にお金が入ると判断したのでしょう。――会社トラブルがテーマの新ブログ「月サンは困ってます」では、中国嫁こと月(ゆえ)さんがこっそり涙をこらえていましたが、いまはどんな様子ですか。井上:結婚当初から一貫して元スタッフのことを月は疑っていました。お金の動きが怪しいと言われても、フィギュアのことは彼のほうが詳しいととりあわなかった。それが今では月の言い分を通して経理も見通しがつくから、以前のようにお金は無いけれど、今のほうがストレスが少ないようです。いまや、月がいないと会社の仕事がまわりません。――フィギュア製造の仕事が忙しそうで、ブログの更新間隔が長くなっていますね。井上:今年の1月は毎日の生活費を心配しながら単行本を出し、月のフィギュアを売って、続けて「魔法少女」シリーズの鈴原美紗ことミサ姉フィギュアの予約受付を始めたら、おかげさまで好調だったので明日のごはんを心配するような状況は脱出しました。来年7月には金型製作のために組んだローン支払いも終わるので、それまで大失敗しないよう仕事をすすめます。――ミサ姉フィギュアが原因で、グーグル社から広告を取り下げの連絡が来たとか?井上:服を着ていたのですが18禁だったので。該当ページを削除して、今は元通りです。グーグルからは「クリエイターに対して圧力はかけていませんのでご理解ください」という文言とともに、もっと効果的な広告になるよう見直し提案もされたんですよ。次回作は18禁ではなく全年齢対象の”紐神様”ことヘスティアなので、心配ないです。――ライトノベル『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』原作のアニメが4月に放送されて、胸下から二の腕を結ぶ青い紐が大評判となったキャラクターですね。井上: 7月26日のワンダーフェスティバルには全長70センチになる見本を展示したいと思っています。バットマンやXメンなどアメコミヒーローをよく作っている工場に頼んでいるのですが、最初に上がってきたとき顔も体型もアメコミっぽくて面白かったですね。妙に鍛え上げられた腹筋なんですよ。もちろん修正を出しています。 会社の仕事とは思ったようには絶対にうまく動かず、たいてい大変なほうへ転がる。最悪を回避することだけ繰り返して乗り切っています。仕事は面白いほうがいいというスティーブ・ジョブズを真似たがる人が多いけれど、あれは絶対にやっちゃいけないことばかりですよ。会社経営というのは、うまくいかないことの連続だとわかりました。――会社の業務も忙しいなか、漫画家まんしゅうきつこさんと「アル中×財産喪失」と題したトークライブを開催ですね。井上:そういえば、ゲーム関係を含めても女性とのトークライブは初めてですね。まんしゅうさんと純粋に会ってみたかったから決めたのですが『アル中ワンダーランド』に「初のトークイベントはこうして、”最初で最後”のトークイベントになりました」とあったので、断られるかもしれないと思っていました。出演を快諾いただけて、ホッとしています。――まんしゅうきつこさんも現在のブレイクは漫画ブログがきっかけですね。ブログも自分の過去を描いていますが、そこでの画風との違いに驚きました。井上:エッセイ漫画、とくに女性漫画家にとって作中で自分をどう描くかは大きな問題なんです。なぜ、いつもの画風と違う自画像なのか、文章と漫画で整合性がとれていない部分があるのはなぜか、まんしゅうさんには色々と聞きたいことがあります。『監督不行届』での安野モヨコさんのように、本人は美人でも自画像を現実より可愛く描かない人は多い。でも、ケタ外れにヒットするエッセイ漫画では自画像が美しく可愛く描かれることが多いんです。ご本人も美人ですが『かくかくしかじか』の東村アキコさんは美しいですし、『毎日かあさん』では割烹着を着たおばちゃん姿の西原理恵子さんも『女の子ものがたり』や『パーマネント野ばら』など抒情的な作品では可愛い姿をしている。――それでも安野さんは自分を三頭身のロンパース姿に、まんしゅうさんは不自然な面長にしてしまった。井上:自画像が変わってしまうと、その漫画を描けなくなるんです。自分も違う絵柄で中国嫁日記を描こうとしてネーム(絵コンテ)が切れなくなりました。そして、エッセイ漫画に嘘は描けない。話を作ろうとすると、とたんに何も描けなくなります。それでも漫画に描きたい。まんしゅうさんもきっと、漫画にしたいアル中の実態に起承転結がないことで苦労したと思う。でも現実って、そういうぼんやりした、もやもやしたものなんですよね。■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズ累計80万部を超えるベストセラーに。最新作は7月15日発売『中国工場の琴音ちゃん』(一迅社)。漫画家・まんしゅうきつこ氏とのトークライブは6月26日に新宿文化センター小ホールで開催。
2015.06.20 16:00
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中国のネットの不動産情報は嘘ばかり 中国嫁日記作者が告白
人気エッセイマンガ『中国嫁日記』(KADOKAWA エンターブレイン)作者の井上純一氏は、2012年から拠点を中国へ移している。昨年、広東省東莞市からより香港に近い深セン市へ引っ越した。新ブログ『月(ゆえ)サンは困ってます』で会社の金銭トラブルに巻き込まれたと告白し話題を集めている井上氏に、中国での引っ越し事情などについてきいた。 * * *――日本で引っ越しとなると、ネットや雑誌で物件を探したり不動産屋へいったりしますが、中国ではどのようにして探すのでしょうか?井上純一(以下、井上):ちゃんと不動産屋があって物件を紹介してもらえます。ネットでも不動産情報は出ていますが、嘘の情報ばかり。ない物件が書いてあって、それを不動産屋に問い合わせると「もっといい物件がある」とすすめられる。「見せ物件」が多すぎるんですよ。日本にもあるようですが、中国のネット不動産情報は見せ物件しかないと言ってもいいくらい。そういうと、月に「中国、そんなイイ加減なことナイ!」と怒られますが(笑)。 最近、だんだん慣れてきて、ごくわずかにある本物の写真の見分けがつくようになりました。構図が中途半端だったり、画像がきれいじゃないものはたいてい本物の物件です。――ネットは効率が悪いですね。実際にはどのようにして探しているのでしょうか?井上:何十、何百と歩いて回るか、賃貸なら知り合いをたどることです。持っている家やマンションを貸したい人はたくさんいて、賃貸は借り手市場といってもよい状態ですから。とくに深センは、転売するためにマンションを買う人がとても多いので貸したい人が多いんですよ。月が「新しい部屋を借りようか」と言ったら、周りから「うちのを借りてくれないか」とずいぶん言われましたよ。――最近、不動産デベロッパーの佳兆業集団がデフォルト危機に陥ったと報じられるなど、中国は不動産市場が大変だというニュースばかり目立ちますが、深センでは事情が別なのでしょうか?井上:暮らしている実感としては、中国の不動産バブル崩壊は感じないですね。賃貸は少し安くなっていますが、深センの販売物件はあんまり下がっていない。香港が近いので、香港に住む人たちが投資目的に買っているという事情もあるかもしれません。以前は、暴落したときにお金があったら、中国の住まい兼、投機目的でマンションを買うのも悪くないと呑気に考えていました。それどころではなくなってしまいましたが……。――深センの不動産事情は特別なのでしょうか?井上:深センのインターネット回線は早いんです。北京や上海でも夢の数字と言われる100メガ回線が引かれていますから。それでも、香港と比べるととんでもなく遅いです。いま住んでいるマンションも100メガと言われていますが、夜12時ぐらいの、ネットを使う人が多そうな時間帯はとても遅くなる。金盾(※中国のネット検閲)に邪魔されているのかなと思ったら、ただ遅いだけだったということも(笑)。――不動産を購入する人は多そうですが、居住率は低そうですね。井上:うちの隣の部屋は、1か月に1回しか帰ってこないですね。でも常に売買も動いているので、頻繁に工事があるんです。だからマンションに住んでいると、四六時中どこかで工事をしていてうるさいですよ。日本と違って、中国ではマンションを販売するときは内装を全部とりはらったコンクリートむき出しの状態にするので、買うと必ず内装工事をします。 でも賃貸だと、大家さんが用意した家具や電化製品までそろっている部屋もあります。食洗器が欲しいと言ったら買ってくれたり、洗濯機が古いと言ったら入れ替えてくれたりということも。知り合いを通じて貸してもらっている大家さんだと、そういう話もしやすくなります。――これから買おう、借りようという人たちはどんなところに注意を払うのでしょうか?井上:本当に大丈夫な物件かどうかは大変な問題で、つてがないと調べる方法はありません。自分できいてまわるしかない。不動産屋や売主が提供する情報が、本当かどうかはわかりませんからね。内覧しただけでもわからないから、人にきくしかない。そこが面白くてね。中国人は見ているものを信じないんです。だから、詐欺で一番多いのは、周りの人間にきいて信用したというパターンです。 南京盟信というニセ銀行を1年で200人が利用し、合計2億元(約38億円)もの金を集めていた詐欺事件がありましたね。あれも、まわりの人間が「金利がいい銀行があるよ」と言うのを信用してお金を預けちゃったんですよ。――身近な人の話は、胡散臭くても信用してしまう。皮肉な話ですね。井上:もうひとつ、逆に信用しているものがあるんです。政府が熱心に言うことは、きっと逆のことが起きると信じているところがあります。 昨年暮れに、深センで年間10万件までという自家用車の購入制限が始まりました。直前まで政府は「購入制限はしない」とアナウンスし、制限が始まるだろうから今のうちに車を買ったほうがいいですよ、と広告を出したディーラーが逮捕されたりしました。そこまでして否定したのに、購入制限は開始された。こういったことが続くから「政府がわざわざ否定することは現実になる」という、ややこしいリテラシーが発達するわけですよ。――口コミや知人のつてをたよって情報を集め、無事に引っ越しとなったとき、引っ越し業者はどんな仕事ぶりでしたか?井上:深センの引っ越しは、すごく安い。知人が引越しを頼んだとき、10畳の部屋が2つ埋まるくらいの荷物がありましたが、それをすべて運ぶのに10万円かかりませんでした。日本だったら100万円はかかる。人件費がとんでもなく安いからでしょう。引っ越し費用は安いですが、すごく雑に運ばれます。家具をクレーンで吊り上げるときもワイヤー1本だけでぶらーんと吊っていました。 きちんと運んでもらいたい人は、高くなりますが日本など外資系の引っ越し業者に頼んでいます。普通はそういうことはしないので、たいてい何かがぶっ壊れてひどい目にあう。私の場合は、机の支柱が折れていました。なんでこんなところが折れるのか、わからないですね。もちろん補償はありませんでしたよ。■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』4巻(KADOKAWA エンターブレイン)。
2015.02.11 16:00
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『中国嫁日記』作者 フィギュアで経営危機を立て直すと決意
中国人妻・月(ゆえ)さんとのカルチャーギャップ満載な夫婦生活を描いた人気エッセイマンガ『中国嫁日記』(KADOKAWA エンターブレイン)作者の井上純一氏が、新ブログ『月サンは困ってます』で会社の金銭トラブルに巻き込まれたと告白した。「80万部作家なのに無一文」だと笑う井上氏に、経営危機に直面している会社の再建計画についてきいた。 * * *――社長をつとめる銀十字社の今後の事業計画を教えてください。井上純一(以下、井上):1月はピンチでしたが、なんとか山を越えました。今のところは『中国嫁日記』4巻が出て一息つき、月のフィギュアと同人誌総集編の再販が命綱です。――昨年9月に会社のお金が無いと気づいた後、同人誌の再販はすぐ決めたのですか?井上:委託販売しているショップ「とらのあな」さんから提案されて、初めてその方法に気づきました。同人誌関係からのお金を会社の資金繰りにあてることは想定していなかったんです。会社を回すには、せめて売れそうな仕掛品、版権をとったのに製造していない有名ブラウザゲームの人気キャラクターフィギュアなどを販売すること以外は思いつきませんでした。そのための資金をつくろうと考えていたんです。――同人誌の再販と同時に発表された月さんフィギュアの販売目標は?井上:「とらのあな」さんのご厚意で販売数を3000個まで増やしてもらっています。普通なら1500個なんです。でも、多めだというのに財政的なピンチはあまり変化しない。というのも、金型代金を甘く見積もっていたらしくて値段のつけ方を間違えたんです。――かつては同人フィギュアの制作をされていたんですよね?井上:これまで、同人フィギュアも含めて値段をつけていたのはフィギュア部門担当スタッフだったんです。今、そのスタッフはいないから、自分でやらないとならない。会社の仕事はマンガ部門もフィギュア部門もすべてできると自負していますが、値つけだけはやったことがありませんでした。「とらのあな」の店舗特典として『中国嫁日記』4巻におまけでつけたマンガに「月さんフィギュアは1500個売れないと赤字」と描きましたが(※誌面に1700個とある箇所は誤植)、実際には1500個だとまだ100万円くらい損しています。――月さんフィギュアの値段は、どうやってつけたんですか?井上:自分がユーザーだったら5000円以上は出さないなという感覚で値段をつけちゃったんです。同業者が呆れて、原価を入れると販売価格が出る計算式を教えてくれました。それを使って損益分岐点をみて、値段を導き出すという使い方まで。次回からは間違えません!――フィギュアについても、これまでと同じような売り方では事業再建と継続に追いつかない可能性がありますね。井上:これまではフィギュアの宣伝は自分のブログでしてきませんでした。マンガを描くことで稼ぐのに専念していたので。でも、そうも言っていられないのでフィギュアについてもブログで積極的に触れていきます。フィギュアを作る過程、傾いた会社をなんとかたて直していく過程をマンガにしていくしかないという状態に追い詰められたんです。――会社経営において必要なのは、どんな資質だと思いますか。井上:パターン認識の力でしょう。これはお金儲けがうまい人に多いですね。堀江貴文さんがお金儲けがうまいのは、パターン認識の力が超越しているから。この現象は、どこかで見たことがある。これはあれと同じだと即座に気がつく能力が卓越しているんです。 孫正義さんもそうだと思います。だって、14年前の売上がほぼゼロだったアリババに、肝心の当事者が遠慮しても20億円ぽんと出して、14兆円に化けさせるんだから。他の人にはわからないパターンを見つけていたのだろうと思います。――パターン認識の力は養えるものなのでしょうか?井上:ある程度までは可能でしょう。でも、ある一線を超えようと思うと能力の部分も大きい。逆にこの能力を持っている人は、人間関係ですら数値で認識しがちで世間の反感を買うこともある。私の場合、現実の人間関係そのものが少ないので実生活で人を数値化しませんが、評論家気質のオタクなので共通するところはあります。――そういった分析気質ではない経営者はありえますか?井上:アップルのスティーブ・ジョブズをはじめ、伝説の経営者と言われる人は分析の人ではなく、創造の人たちが少なくないと思います。クリエイターなんですね。自分が考えた製品によって世の中が変化し、新しくなる物語が見えていた。私はそちらではないですね。――でも、マンガを描いているのだからクリエイターなのでは? 井上:エッセイマンガしか、たぶん描けないので違うでしょう。日中関係をキャラに置き換えてマンガにしたり、それなりの絵は描けるけど、それはテクニックであって、すごく旨い素晴らしい絵は描けない。まったくの白紙からリアリティのあるキャラクターを生み出せないんです。『中国嫁日記』は、当たり前ですが実際にその人がいて生活している日常をベースにしているから、リアルな物語を感じてもらえるんです。――値段など不安もありますが、会社経営は改善していきそうですね。井上:もしも、これから銀十字社という会社から出るフィギュアが一体も売れなければ、お先は真っ暗です。でも、80万部作家が無一文になって、その過程をマンガにするのなら、うちの商品に興味を持ってもらえるのではないか。そこに光明があるのではと思っています。 あと、私が監修する限りそんなにひどいフィギュアにはならない自信があります。それは、今までの同人フィギュア、とくに、5年以上前につくった最後の作品、ファイナルフィギュアの出来を見てくれれば納得してもらえるかと。あのころよりも技術力も上がっていますから、手もとに置いて満足できるフィギュアをつくっていきますよ。■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』4巻(KADOKAWA エンターブレイン)
2015.02.08 16:00
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『中国嫁日記』作者 「ある日、いきなり無一文生活」を激白
40代のオタク男性と一回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)さんとのカルチャーギャップ満載な生活を描いた人気エッセイマンガ『中国嫁日記』(KADOKAWA エンターブレイン)。1月末に最新4巻が発売された数日後、作者の井上純一氏は新ブログ『月サンは困ってます』で会社の金銭トラブルに巻き込まれたと告白した。累計80万部の人気シリーズを持つベストセラー作家の財布が、なぜからっぽになったのか。井上氏が今の状況を語った。 * * *井上純一(以下、井上):昨年9月に日本へ一時帰国したとき、会社の銀行口座を確認したら40万円しかなかった。私が社長ですが、会社から給与をもらう形にし中国に住んでマンガに専念していたので、会社のお金は日本と中国を頻繁に往復しているフィギュア部門専従のスタッフにまかせていました。 いったい何が起きているのかと驚いていたら、税金未納で会社の口座を差し押さえるという税務署からの通知が来ていることも分かりました。まかせていたスタッフとはなかなか連絡が取れないし、何も聞かされていなかったので、これから先どうするんだとショックでした。――どのくらい滞納になっていたんですか?井上:約1500万円です。でもこれは、自分が確かめたときの翌月に一括で支払った場合の額でした。銀行口座に40万円しかない有様では当然、払えません。最終的には利息がつくので1700万円くらいになります。本当に税金はすぐに払ったほうがいい。今は最悪の状態を脱しましたが、会社の税金滞納がわかったときは生活費の確保もあやしい状態でした。――支払いはこれからになるんですね。井上:税務署へ事情説明にいきました。そこで会社の状況を話したら、いたく同情されまして(苦笑)。それまで税務署にはとても怖いイメージがありましたが、親切でしたよ。税金を払うという意思を伝えたら、税務署は口座の差し押さえをせずに待ってくれることがあるんです。 税金のために『中国嫁日記』4巻を出版して印税を得なければならないので、問題を起こしたスタッフの対処と、会社の資金繰りに苦しみつつ必死でマンガを描いていました。そして、生き残るためには今の状況をマンガにするしかないと思いました。そう思わなければ耐えられなかった。もっとも、裁判も視野に入った現在進行形の出来事なので、新ブログ『月サンは困ってます』は必ずネームを弁護士の先生に監修していただいています。――井上さんが社長をつとめる銀十字社の業績は悪くないはずなんですね。井上:銀十字社を立ち上げたのは今から8年くらい前です。個人で同人フィギュアを作っていたとき、中国への送金など経理上の都合から設立しました。その後、協力会社がつぶれて玩具部門を引き受けたので、マンガの制作部門とフィギュアの企画製作部門の2部門からなる会社になりました。今回、お金がなくなったのはフィギュア部門からです。 マンガだと黒字しかありえないんです。アシスタントなしに私が一人きりで描いていますから人件費が私だけ。その代わり、マンガを描くためにフィギュアの仕事に専従できませんでした。フィギュアにお金がかかることは分かっているので、スタッフまかせでとくに細かいチェックをせずにいたら法人税が滞納され、数千万円の負債が積みあがっていた。――無防備に信用するからお金が無くなるのだと指摘されそうですが?井上:起きてしまったことについては、ひとつずつ対応していくしかありません。ご迷惑をかけた人には謝るしかない。でも、スタッフを信じないと一緒に仕事はできなかった。少なくとも私はそうだったんです。だから、信じずに仕事をするという選択肢はありえなかった。――総額でどのくらいの負債になりそうですか?井上:まだすべてが把握できていないんです。改めて会計士さんに確かめてもらっている途中なのですが、印刷所や、中国で身近に接している人への1000万円以上もの未払いもありました。ベストセラー作家の会社なんだから払わないはずがないと黙っていたようなんです。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。――まとまった未払い以外の負債の状況は?井上:大きな支払いを分散させるために会社でローンを組んでいますが、ほとんどが1体数百万するフィギュアの金型代金です。総額2000万円ほどを毎月50万円ぐらいずつ返済することになっていて、今でも約700万円残っています。普通なら、金型まで彫ったら製品を作ったと思うでしょう? でも、製品になっていないものがいくつもあった。そして、これら何年も前に企画だけで流れたと思っていたものが、すべて「仕掛品」になっていました。――仕掛品として計上されると、どのような影響があるのでしょうか?井上:すべて「資産」になるんです。製品化しなければ利益を生み出さないのに、それだけで約6000万円も存在していた。そのぶん税金が積みあがります。――この負債化している資産にはどんなものが?井上:人気キャラクターだけでもずいぶんありますよ。ロングセラーになっている人気ゲームの美少女キャラとか、有名ブラウザゲームの人気キャラとか。あんなに人気があるのに、どうしてちゃんとしたフィギュアが出ないのかと不思議に思っているファンもいたと思うのですが、それは、うちが版権をおさえているからなんですね(苦笑)。――社会現象を起こすほどの人気を考えたら、今すぐにでも発売しないと。井上:出せないんですよ。フィギュアが売れるのはわかっています。でも、私からみて原型のクオリティが納得いかない。日本人の原型師にゼロから作り直させるしかない。でも、腕が良い原型師はみんな忙しいんですよ。ブログで原型師募集しようかと思うくらいです。やりたいと手を上げるファンの原型師がいるんじゃないかな。――『中国嫁日記』の印税が会社の税金や負債に消えたら、生活はできるのでしょうか?井上:1月半ばまでは厳しかったですね。Googleとの契約上、具体的な額は言えませんがブログ『中国嫁日記』の広告料でしのいでいました。しばらくは広告料で生活していきます。印税やフィギュアの収入は、会社の税金と負債を払うために消えるので。 80万部も売っている作者は、少なくとも何千万かは持っているだろうと誰でも思うのに、まさかすかんぴんで無一文だったとは(笑)。しかも税金の未納がたくさんあるから実質マイナスです。1万円単位の金で困る生活を送ることになるとは誰も思わないですよね(笑)。■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』4巻(KADOKAWA エンターブレイン)。
2015.02.07 16:00
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中国人「自分撮り需要」の高まりで日本製デジカメが復活か
9月発売のコンパクトデジカメ新製品がソニーとカシオから相次いで発表され、どちらも自分で自分のポートレートを撮影する「自分撮り」に強いカメラである点が注目されている。カシオの「EX-FR10」はカメラと液晶が分離できアウトドアでの使用にも耐えられる頑丈なつくり。中国で発売される香水瓶モチーフが特徴的なソニーの「KW1」に至っては自分撮り専用機。というのも、中国では日本よりもずっと「自分撮り」が浸透しているからだ。「中国語を話している観光客とよくすれ違いますが、男も女もカメラをかまえて自分の写真を撮っていますよ。けっこう大きい一眼レフでも自分撮りしています。どうしても気に入った画角で撮れないと、写真を撮ってくれとお願いされますね。けっこう決めポーズをとってくれて楽しいですよ。自分がその景色におさまっていることが大事らしいです」(お台場在住の40代男性) 写真共有SNSとして人気上昇中のInstagramで「#自撮り」「#自分撮り」「#selfie」「#selfy」などのタグで検索すると、誰もが知るセレブ有名人だけでなく普通の人たちによる自分撮り写真を無数に確認できる。欧州、アジア、中東、米国など世界中から投稿されていて、一部の地域における限定されたブームではないことがわかる。楽しんでいる自分の表情を載せているものもあれば、服装や髪、プロポーションを誇示するものなど目的も様々だ。 ところが、6億を超えるネット人口を持ちながらInstagramやFacebookなどのSNSにアクセスできないため、中国における自分撮りの様子は確認しづらい。しかし『中国嫁日記』作者で2年前から中国南部で暮らす井上純一さんに聞くと「年寄りはやりませんが若い子、とくに90后(ジョーリンホー、1990年代生まれ)にとっては完全に自分撮りが常識になっています」と中国での様子を語ってくれた。「中国東北地方出身の月に聞いたところ、スマホが普及する前、携帯カメラに自分撮り機能がついていない頃から何かと自分撮りをしていたそうです。まわりの様子や景色を見て、自分がキレイに写るだろうと思うとき、または記念写真的に自分撮りをしています。都会だけでなく地方でも同じように撮っています。80后(バーリンホー、1980年代生まれ)が日常的に自分撮りを始めて、今では年寄り以外は誰でもやっている感じです。 中国では、一般人でも成人や結婚など節目にはプロによるメイクや衣装、演出で撮影して一点物の写真集『芸術写真』を作成し、家へ来客があるとみてもらいます。自分も結婚するときに作りました。中国の人は自分をキレイに撮ってもらうことが大好きです。だから、スマホやデジカメで自分撮りをし、それをSNSで見てもらうのが流行るのは当然だと思います」 今年の春、中国のネットで実施された3万4993人を対象にした調査によれば「自撮りの習慣がある」のは66.5%で、そのうち28%は「頻繁に自撮りして」おり、31.1%が「自撮り写真をネット上に投稿する」となっていた。こういった中国人の自分撮り志向を考えれば、冒頭で紹介したソニーの自分撮り専用デジカメが5199元(約8.7万円)とかなり高額の予定価格であっても人気を集めると期待できる。 実際に、日本での売れ行きが低調だった2011年にカシオが発売した「EX-TR100」は香港在住の人気モデルがEX-TR100で自分撮り写真をSNSに投稿したのをきっかけに中国語圏で人気を集めた。液晶で確認しながら撮影でき、美白などの効果をつけられるため「自拍神器(自分撮りの名機)」の名で呼ばれ、価格も日本での販売価格より高い5000元(約8万円)を超えた経緯がある。9月の新製品も後継機として注目されるのは間違いない。 苦戦続きと言われるコンパクトデジタルカメラだが、中国の自分撮り人気をきかっけに復活が期待できそうだ。
2014.08.31 07:00
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中国嫁日記作者「ハリウッド映画の駄作ほど中国で大ヒット」
3 巻が発売された『中国嫁日記』(KADOKAWA エンターブレイン)著者の井上純一氏が、一回り以上年下の中国人妻、月(ゆえ)さんと一緒に広東省東莞市へ移住してもうすぐ2年になる。その井上氏に、中国でなぜダメなハリウッド映画がヒットするのか、中国制作アニメの現状、ホビー業界の展望について聞いた。* * *――最近は中国市場を重視しているハリウッド映画ですが、やはり人気が高いのですか?井上純一(以下、井上):中国人はハリウッド映画好きです。特にダメなハリウッド映画が好きなんです。それは、多くの中国ウォッチャーたちも言っています。 1980 年代の日本を思い出してください。『キャノンボール』や『グーニーズ』など、アメリカでは箸にも棒にもかからなかったのに、なぜか日本で大ヒット。そういう映画がけっこうあったでしょう? 当時はハリウッド映画を見に行くという「文化」が日本にあったんですよ。今の中国も同様で、パニック映画『2012』が大ヒットしたときは、本気で2012年の地球滅亡を信じている人がいたくらいです。――ハリウッド映画が浸透しないインドとは対照的ですね。井上:中国人にはハリウッド映画をありがたがる傾向があるからでしょう。昔の日本と同じくデートで行く人が多いですね。そしてなぜかダメ映画ほどヒットする。去年、中国で『マン・オブ・スティール』が大ヒットしたときは「なぜこんな映画がヒットするのか、わけがわからない」と中国人自身の書き込みがSNSのウェイボー(微博)に溢れたぐらいです。 中国人監督にも素晴らしい才能にあふれた人は大勢いますが、残念ながら規制が強すぎて面白い映画が作りづらい。一方でインドは性的表現の制限はあっても基本的に自由です。でも中国では、共産党を揶揄してはいけない、世情を騒がすよう意図しているようにみえるなど、さまざまな理屈で検閲される。――よい映画もあるのに、去年テレビ放映された中国制作アニメ『トレインヒーロー』をみるとアニメ制作はまだ発展途上だと感じますね。井上:あれ、ダサいですよね。中国のCG 技術はトップレベルならハリウッド映画で通用する水準です。ところが、子ども向けになるととたんに酷くなる。中国人は、子供向けは本当に子供だましでよいと思っている節がある。なので、アニメは酷いものが多いです。まれに例外もありますが……。そしてやはり、表現規制の問題があります。 この間、中国で大人気のアニメ『喜羊羊与灰太狼(シーヤンヤンとホイタイラン)』が規制を受けました。作中の羊と狼をまねて、10 歳の男の子が弟たちを木にしばりつけ火あぶりにして大やけどを負わせる事件があったからなんです。このアニメはキャラクターが悔しがってフライパンで殴るというような暴力描写が多い。 暴力描写に頼るのは、他に面白くする方法が少ないから。子供向けは基本的に恋愛ものがダメ。社会風刺、殺人はもちろん、ちょっとした流血もダメ。そうなると、猫とネズミが追いかけっこを続ける『トムとジェリー』のような世界しかできない。 中国のマンガ家も大変ですよ。本は売れず、すぐにコピーされ、規制が厳しくて好きなストーリーが描けない。彼らの夢は日本でマンガを売ることです。かつて編集家の竹熊健太郎さんが「このままでは日本の漫画界は数年のうちに海外においていかれる」と言っていましたが、中国からみると逆です。――中国では本が売れないのですか?井上:中国人は基本的に本を読まないですよ。たとえば2012 年に莫言がノーベル賞を受賞したとき、受賞後の最新刊が20 万部と聞いてずっこけた覚えがあります。日本の10 倍人がいるのに! 海賊版が多く、ほぼネットで読めるから本が売れないと言われています。 この話題は中国人自身がとても気にしているようです。以前に見たテレビ番組は、中国人は平均して3~4 冊しか本を読まないという調査結果に対し、中国の識者が「それは違う。26 歳までの低年齢に絞れば6~8 冊だ!」と反論する内容でした。でも、漫画も雑誌も含めているそうなので、この数字でもかなり絶望的です。さらに月が「コレ、きと教科書入れてマスヨ」って(笑) 文章はほとんどネットで読んでいるのでしょう。本屋もありますが大都市にしかなく高価です。たくさん本を読む人と、まったく読まない人の差が激しいんです。――中国は映画やアニメを輸出することを考えているのでしょうか?井上:ないですね。そういう点ではアメリカと中国は非常によく似ていて、自国のことしか見ていない。自国の人間がどう思うかが重要で海外はどうでもいい。 中国共産党は、本当は尖閣諸島なんかどうでもいいと思っているんじゃないかと僕は疑っています。国威高揚になるからこだわるだけで。日本に弱みを見せて「共産党もっとしっかりやれ!」とデモが起こるのが怖い。面白いのですが、同時に「日本をやっつけろ!」とデモが起こるのも怖いんです。反日と抗日のどちらでも、とにかくデモは潰す。人民が政府の思惑と関係なく、一致団結して行動するのが怖い。――中国は一体感を保つのが難しいですね。井上:本来は、分裂の危機はどこにでもあると思います。私が住む東莞は広東語を話し、中国の共通語、北京語と比べるとほぼ外国語で違う民族です。それを漢民族だということにしてしまう。本当はもっと細かく分けられるのに、少しでも漢族の血が混じると漢民族にして、中国のほとんどの人間を漢民族にしてしまっている。 そこでプロパガンダがとても重要になる。テレビでは「中国の夢。私の夢」という言葉が何度も繰り返されます。国家の夢はあなたの夢だと言い続け、「漢民族」という概念に疑問を持たれぬよう、国はあなたであり、あなたは中国と不可分だと言い聞かせ続けなければならない。自分の印象ではこのプロパガンダはかなりうまくいっていると思います。ウイグルなど一部地域を除くと、かなり浸透して人心を安定させているようです。――日本の景気は回復基調だと言われていますが、仕事の上で感じる部分はありますか?井上:少し感じますね。フィギュアが少し売れるようになった。でも、本当に好景気になるとフィギュアは売り上げが下がるんですよ。 ホビー業界が伸びたのはバブルのあと、みんながお金を小さいものに使い始めて伸びました。だから不況に強いというより、ちょっと回復したくらいがちょうどいい。極端な言い方をすれば、景気がよくなりすぎるとフィギュアを買ってた人たちがスキーに行っちゃう(笑)。金がまわりはじめると、本当にリア充になろうとするんじゃないですか。でも、本などは好景気のときのほうが売れると思いますよ。■井上純一(いのうえじゅんいち)1970 年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。40 歳で結婚した20 代の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログを書籍化し累計65 万部を超えるベストセラーに。2012 年4 月から広東省東莞市在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』3 巻(KADOKAWA エンターブレイン)。
2014.03.15 07:00
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中国人民解放軍サイバー部隊との攻防 中国嫁日記作者が語る
ひとまわり以上年下の、中国からやってきた20 代のお嫁さんと40 代オタク夫との日常生活を描く人気ブログが原作の『中国嫁日記』(KADOKAWA エンターブレイン)著者の井上純一氏が、玩具製造会社の仕事のため広東省東莞市へ移住してもうすぐ2 年になる。中国生活に馴染み始めた井上氏に、中国で生活する上でもっとも苦労しているネットの遅さと、中国ネット民と中国人民解放軍との攻防について聞いた。* * *――中国はネット大国と言われているのに通信速度がとても遅いそうですね。井上純一(以下、井上):光回線で8メガ、ADSL で6メガしか出ません。日本なら100メガが当たり前なのに。それでも我が家は8メガADSL を引けたのですが、正確にはマンション全体で8メガらしいです。なので、他の部屋の人が回線を使うととてつもなくのろくなる。私のツイートが明け方に多いのは、みんなが寝ていてネットが速くなるからです。でも、たいていの家の通信環境は2 メガしか出ないと妻の月(ゆえ)に言われました。――中国といえばYouku や56.com など動画サイトの人気が高いのに遅いままなんですね。井上:中国の動画サイトはすさまじく解像度が低いですよ。でもまあ、中国の人にとっては観られるだけでいいんですよ。 先日、国営放送の中国中央電視台(CCTV)で「夢の100メガ生活」という特集をしていました。政府がネット環境向上キャンペーンを始めていて、実験的に100メガの回線が引かれている家があります。その家の人たちがインタビューで「映画があっという間にダウンロードできるんです」と嬉しそうに答えていました。そりゃあ今の2メガから比べれば夢かもしれないけれど(笑)。――遅い上にサイバー万里の長城と皮肉られるネット検閲システム「金盾」があって、中国のネットは普及に反比例して不便ですね。井上:検閲されない通信をしたいときには、バーチャルプライベートネットワーク(VPN)という技術を使うのが一般的ですが、そのネットワークに金盾は負荷をかけてくるんです。VPN は暗号を使って接続するのですが、その解読は事実上不可能です。内容を検閲できないくらいなら通信そのものをつぶしたい。だから金盾はVPNのような通信が発生している状況を探知して、自動的にその通信へ負荷をかけ、速度をとてつもなく遅くするんです。 遅すぎてまともに使えなくなるからVPNをつぶすのに成功するわけですが、この機能は作動するまでに時間がかかります。だから負荷が重くなると別のVPNに切り替え逃げ回るという使い方をするんです。金盾は、中国の電脳世界を支配するやっかいな虫みたいなものですよ。この追いかけっこは、まるで1980年代に流行したSF、たとえば『ブレードランナー』や『AKIRA』のようなサイバーパンクの世界なんです。――香港ならともかく、中国本土にサイバーパンクというイメージはなかったですね。井上:現実の中国は貧富の差が本当に大きい。そして都市が無秩序に拡大するスプロール化が起こり発生した貧民街と、金持ちだけが住み、その中で生活が完結する巨大建造物のアーコロジーという相容れないエリアが出来上がっている。そして、私のように当局、金盾と追いかけっこする連中がいる。あと、画面を覆い尽くすスモークとか、1980年代に流行ったサイバーパンクの世界は今、中国で実現している感じです(笑)。 私はVPNに負荷をかける金盾しか知りません。でも中国版ツイッターと言われる新浪微博(シナウェイボー)などSNS系で活動している人は、実質的な脅威にさらされている。人民解放軍電脳部隊の軍人たちが直接、危ない書き込みを見つけて消したり、書きこんだ人を逮捕したりしているのですから。中国には自由なネットは存在しない。――それほど苦労しても、中国人はネットを止められないんですね。井上:それでも中国人はものすごい勢いでネットをやり、ネットが世論を作っているのは間違いないです。一方で日本のSNSは現状、社会への影響が大きくない。たとえば、都知事選で結局、SNS の影響は感じられなかったでしょう?――実際の投票行動には全然、結びつかないですね。井上:小泉進次郞議員がSNSをやらないと公言しているのは、私は正しいと思います。彼はドサ周りこそが政治を制するのだと信じている。この考え方は、日本では今のところ間違っていないと思います。 一方、中国ではSNSで世の中は変えられる。少なくとも中国共産党はそう信じてるんです。だから当局は5~6万、協力者も含めると何十万という人員にネットを監視させている。軍事費のかなりの部分を投入してネット世論の監視に努めている。――中国の軍事費が増加し続けていることは世界中から関心を集めていますね。井上:中国はロシアの戦闘機Su-27SK「フランカー」に独自の改造をして、殲撃11型として生産していますが、なんとライセンス料を払ってないんです。ロシアは知的財産権の侵害だとして訴えました。中国との協議の末、第三国への輸出禁止までは持って行けた。でも、中国国内の配備は止められなかった。ライセンスなしで生産しているので、この海賊版フランカーが何機あるのかは、正確には分からないんです。 海賊版フランカー(殲11)の他にも、スホーイ33MKK、殲15等の最新鋭機、中国国産の殲撃10型も改良型(J-10B)に置き換えられつつあります。防衛白書によると中国の戦闘航空機は約2580機で日本の約10倍です。未だに国産エンジンの不安定さやレーダー警戒網のずさんさ、パイロットの練度不足等の問題があるようですが、テレビで誇らしげに空母の遼寧などが映る勢いの良さをみると、正直「大丈夫かな?」という気にはなります。■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。40歳で結婚した20代の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計65万部を超えるベストセラーに。2012年4月から広東省東莞市在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』3巻(KADOKAWA エンターブレイン)。
2014.03.05 16:00
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中国嫁日記作者 広州へ移住して最大のチャイナリスクは停電
40代のオタク日本人と、中国からやってきた20 代のお嫁さん、月(ゆえ)さんとの日常生活を描く人気ブログ『中国嫁日記』の書籍版第3巻(KADOKAWA エンターブレイン)が発行された。著者の井上純一氏によれば、ブログで描き続けている原稿は6巻まで出せるほど溜まっているが、2巻から3巻を出すまでに約2年かかった。3巻出版にあわせて一時帰国していた井上氏に、3巻出版の苦労と、もうすぐ2年になる中国生活について聞いた。 * * *――中国へ移り住んでもうすぐ2年になりますね。井上純一(以下、井上):2年経つといっても、最初の1年は日本にいる時間が長かったんです。マンガの仕事をする環境が中国の家になかったので、単行本『月とにほんご』(KADOKAWA アスキー・メディアワークス)の描き下ろしを終わらせてから中国へ行く予定だったのですが、終わる前に引っ越しの日を迎えました。 だから、仕事をするためにちょくちょく日本へ帰る生活だったんです。でも結局、終わらなかったので中国で仕事をすることに決めました。――マンガを描く仕事のための環境を中国で同じように整えるのは難しいのでしょうか?井上:PCやスキャナ、ペンタブレットなどハードウェアで僕が使っている機器は、日本で使っていたものと同じメーカーの正規品を中国で買ったので、日本でそろえるよりも高くつきました。中国で安いのは家賃と人件費だけですね。PC本体は日本で組んだものを持って行きました。 お金がかかることは、その後に起きたことに比べたらたいしたことありません。もっとも問題なのは電圧が一定ではない上に停電がよく起きて、いきなり電子機器が壊れることです。――具体的には、どんなものが壊れるのでしょうか?井上:電力が必要なUSB機器、たとえば外付けHDDなどですが、それらを接続したままPCの電源ボタンを押しても、起動しないんです(笑)。でも、この場合はHDDを外せば元に戻ります。それよりも、2年の間に2回、PCの電源ユニットが壊れたことの方が深刻でした。電圧が不安定なので、過電流で焼き切れて壊れるんです。おかげで「電源が壊れました。作業が遅れます」というメールを日本にいる編集者へ何度も送りました(笑)。――壊れた電源ユニットの替えは中国で購入されたんですか?井上:中国で暮らしている家の前に「電脳街」と称するPCパーツ専門店が集まっているところがあります。電源ユニットくらいそこで買えるだろうと思っていたら、出力電圧が低いものしかない。仕事用PCはマンガやイラストを描くために高性能なCPUやビデオカードを使っているので、電源も高電圧の出力が必要です。日本なら特殊なパーツではないのですが、近所では買えないので、わざわざ香港まで電源だけを買いに行きました。 香港で正確にPCの部品を手に入れるには、通訳として月を連れて行かねばなりません。中国人が香港に行くのは面倒な手続きが必要なので、気軽にふらりと行くわけにはいきません。だから、一度の買い物で複数の電源ユニットを買ってきました。 そうしたら、1年も経たないうちにやっぱり壊れて1個交換したので、もう残り1個しかありません(笑)。交換ばかりしていられないので、無停電電源装置(UPS)を買いました。部屋の電源とPCの間にUPSを設置することで、やっと電源トラブルの回数が減りました。――日本でUPSを使う場所というと巨大なデータセンターや航空管制、発電所など一瞬たりとも停電が許されないところばかりですね。井上:PCを不安定な電流から保護するためにUPSを使っています。この間、停電が起きたので初めてUPSが本来の意味で役に立ちました(笑)。でもゴオオオーと鳴り続けてやかましいんです。日本製じゃなく中国で買ったものだからなのか、凄まじくうるさい。いま初めて告白しますが、電源だけではなく他のトラブルも起きて、このままでは年度末までに『中国嫁日記』3巻を出せないのではと冷や汗をかきました。――すでに十分トラブルまみれなのに、まだ起きるんですね。井上:私の仕事用コンピュータは安全性を高めるために二つのHDDを繋げてデータをミラーリング、同一の内容を二つのHDDに記録するようにしています。その片方が壊れて、今は一つしかHDDが動いていません。幸い、データは複数の場所にコピーしているので、HDDが壊れてもすべてのデータがいきなり消滅することはないのですが、ミラーリングしておいてよかった。このトラブルは、担当編集さんにも今日まで話していませんでした(笑)。――交換用のHDDも香港へ買いに行くのでしょうか?井上:こんなこともあろうかと予備HDDはすでに用意してあるんです。中国の家へもどってから交換作業をします。ちゃんと用意しているあたり、我ながら大したもんですよ(笑)。常にチャイナリスクがあると思って備えています。PC関連に関しては、中国のものを何も信じていません。――中国での生活は、予想しないことと備えることの追いかけっこのようですね。井上:この間は、自分の仕事部屋の電気をつけようとしたら、すべての電源がつかなくなったんです。わけがわからなくて電気屋を呼んだら「明日、修理に来るまで二度とこのスイッチを入れるな。もし入れたら、このフロア全部が停電する」と言われました。ひとつの部屋のスイッチを押すだけで全体が止まる、同じマンションの電気が止まるというんです(笑)。 おそらく配線そのものがおかしいはずなのに、ちゃんと修理してないんですよ。新しい装置を設置しただけで、電気配線の構造はそのままだと思います。その装置が壊れたら、また仕事部屋の電気のスイッチを入れるとマンションのフロア全体が停電するんです。とても面白い(笑)。――ずいぶん雑な対処方法ですが、中国でのお住まいは高級マンションなんですよね?井上:工場が多い地域なのですが、その経営者が多く住んでいるマンションで、実際に金持ちが多いですね。でも、そんなの関係ないです(笑)。中国の住宅事情を考えると、まだまともな方ですよ。■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。40歳で結婚した20代の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計65万部を超えるベストセラーに。2012年4月から広東省東莞市在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』3巻(KADOKAWA エンターブレイン)。
2014.03.02 16:00
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30~40代男の「ミドル脂臭」後頭部が発生要因になるとの調査
加齢臭はおじいちゃんのニオイだから自分にはまだ先のこと。そう思っていたのに家族や友人から「クサイ」と言われる30、40代の男性が少なくない。ひと回り以上年下の妻・月(ゆえ)さんとの日常を描いた『中国嫁日記』作者の井上純一さんも、同様の体験をした一人だ。42歳のとき、脱いだ服を手にした月さんから「なんか臭くナタヨ」と言われ、加齢臭がするようになってしまったのかと絶望的な気分になった。「オタクなので、自分が臭いことは認識していました(笑)。しかし、それは『汗臭い』とか『息が臭い』というものであり、月の言う『腐ったような匂い』だとは思ってもいませんでした。だから、コミケへ行くときに制汗剤を使う対策をする程度だったんです。加齢臭なんてまだ先のことだと思っていたので、なおさらショックでした」 その後、偶然、ラジオ番組で「耳の後ろを丁寧に洗うと臭いが消える」と話しているのを聞いた井上さんはボディソープで念入りに洗い始めた。しばらくして月さんに「最近臭いナイネ」と言われ、いまも丁寧に洗うことを続けている。 井上さんは加齢臭対策を応用し効果を得たが、実際の原因は加齢臭ではない可能性が高い。というのも、加齢臭は「ノネナール」という物質が原因で発生する枯れた草のような臭いで、月さんが指摘した「腐ったような臭い」とは違う。30~40代に多い使い古した脂のような臭いの理由は長らく不明だったが、「ジアセチル」が原因成分であると男性用化粧品の製造・販売で知られるマンダムが11月18日に発表した。 男性の体臭は年齢とともに変化する。10代から30代半ばごろまでは、ワキの臭いを中心とした汗臭いニオイがする。30代半ばから50代半ばのミドル世代は、皮膚に常在するブドウ球菌が汗中の乳酸を代謝し前出のジアセチルが発生、脂臭さがたちのぼる。以降の年代はノネナールが産生され加齢臭が強くなる。30~40代のミドル男性は汗臭さも残しつつ、50代が近づくにつれ加齢臭も加わり、生涯で最も体臭の要素が多いお年頃だ。 30~40代男性に特有の脂臭さ「ミドル脂臭」というのはやっかいで、アンケート調査によれば、男性は気にならない人も少なくないが、女性は男性よりも敏感に感じ取り、しかも不快だと認識する率も高いという結果が出ている。電車などで偶然、真後ろに立った女性がすぐに場所を移動するような行動をとったら、あなたからはミドル脂臭が発生しているかもしれない。 それでは、ミドル脂臭で周囲から敬遠されないためにはどうすればよいのか。汗の量、つまり乳酸の量が独特の臭いにつながるので、それらを抑える努力が必要だ。まず、太りすぎは厳禁。そして頭と首の後ろを、今よりも念入りに洗うことが重要だ。体臭の発生源を年代別にみると、30代半ばから50代半ばは頭部から最も強く臭いが発生しているからだ。 ところが、30~40代男性の入浴行動について調べると、もっとも気をつけたい頭の後ろから首にかけてていねいに洗っている人は、他の部位よりもずっと少ない。20代に比べて皮脂が粘つき、若いときと同じシャンプーで洗っても皮脂の残存率が10倍以上になるにも関わらずだ。 また、カンゾウやケイヒに代表される植物性フラボノイドなど、ミドル脂臭抑制効果がある成分が入った洗浄剤を利用するのも効果的だ。普通の洗い方では落としきれない脂臭さが残る人は、自分の年代の特性に合わせた洗剤やシャンプーを利用するのが得策だろう。 スメルハラスメントという言葉が数年前から広がり始め、消臭剤などの売れ行きが好調だという。強い暖房や厚着など、冬も案外と汗をかくもの。体臭で家族や職場、友人たちへのハラスメントのもとにならないよう、気を配りたいものだ。
2013.11.24 16:00
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ピューロランド黒字化 中華圏女子のハローキティ人気が後押し
ハローキティなどの“カワイイ”キャラクターで知られるサンリオのテーマパーク「サンリオピューロランド」(東京都多摩市)。1990年12月オープンだが、1991年4月オープンの「ハーモニーランド」(大分県日出町)とともに長年、赤字を出し続け、同事業はサンリオにとってお荷物ではないかと指摘する株主もいた。ところが、2014年3月期にはサンリオピューロランドが黒字に転換する見込みだという。 最近のピューロランド入場者数(3歳以下の無料入場者を含む)をみると、2009年が108万5000人、2010年に113万7000人に、2011年は東日本大震災の影響があったにも関わらず113万3000人、2012年は115万4000人と一貫して増加傾向にある。ピューロランドを運営する株式会社サンリオエンターテイメント広報宣伝課の真鍋和弘さんがいう。「今期は7月20日に新エリア『サンリオタウン』がオープンします。大幅なリニューアルはオープン以来初めてです。サンリオ世代の20代、30代の女性など新規顧客層の拡大、リピーター増加が予想されますので入場者数は3割増になると見込んでいます。外国からのお客さまも今年度は昨年よりも2万人増が目標です」 日本で育った女の子なら一度は通るサンリオキャラクター。ところがテーマパークは立地の不便さなどを理由に長らく苦戦を強いられてきた。そのピューロランドが黒字転換した背景には、中華系女子の援軍も大きいというのだ。「尖閣問題以降、中国本土からは減ってしまいましたが、外国人の8割を占める台湾や香港など中国語圏からは多くの方がいらしています。他にはタイ、マレーシア、シンガポールやインドネシアからが増えているのが目立ちます。集計は団体旅行だけが対象ですが、香港からは集計されない個人旅行の方が増えているようです」(前出・真鍋さん) 家族で出かけたのをきっかけに繰り返し訪れ、今では年間パスポートを購入して家族でリピーターになってしまったという通信会社に勤めるサラリーマンが語る。「最初は『着ぐるみのショーだろう?』と思っていたら、予想外に本格的なミュージカル風のショーで驚きました。とても一日では見きれないです。東京ディズニーランドにもときどき行きますが、ピューロランドの方が外国人観光客が多いように思います。Facebookのピューロランドページを見ても、外国人、特にアジアからのファンの書き込みが多いですよ」 サンリオといえば、なんといっても看板キャラクターは1974年に誕生したハローキティだ。口のない白いネコで、頭がとても大きい。そっけないほど詳しい設定がないが、1990年代半ば、歌手の華原朋美がテレビ番組でキティ好きを公言してから、日本では大人向けのキティ商品が増え始め沈滞していたハローキティ人気に再び火がついた。その後、このブームは日本にとどまらず、アジア全体に広がった。 1999年6月、香港ではマクドナルドが限定のキティちゃんぬいぐるみとタイアップしたキャンペーンを実施したところ、大成功をおさめた。続いて台湾でも同様のキャンペーンをマクドナルドは行ったが、初日にわずか4時間でぬいぐるみ50万体を売り切った。その後、同様のキャンペーンを行ったシンガポールでは、ぬいぐるみを求めて集まった客によって店のガラス戸が砕けケガをして入院した人も出るほどの事件となった。 その後のキティちゃんは特にアジアの若い女性への人気は広く定着した。ただし、彼女たちの受け入れ方はキッチュでキュートな流行として取り入れているスーパーモデルのタイラ・バンクスや、歌手のマイリー・サイラスやケイティ・ペリーが言う「キティ好き」と少し違う。『中国嫁日記』(エンターブレイン)『月とにほんご』(アスキー・メディアワークス)の作者で、現在は中国・広東省に住む井上純一氏は、中国女性にとってハローキティは特別な存在だという。「日本発のキャラクターはどれも中国の女性に大人気ですが、ハローキティはその中でもダントツの一番です。もともと台湾や香港での人気が中国本土へも広がりました。ハローキティはしっぽが短い日本らしいネコキャラクター。マンガやアニメキャラクターのような詳細な物語を持ちませんが、そのために余白が多いので感情移入しやすく、憧れの存在になりやすいようです」 憧れを反映してロマンティックな雰囲気まで持つため、北京にあるハローキティがテーマのレストランはカップルがプロポーズする場所として人気で、店側は「プロポーズの成功率100%」と現地メディアの取材に答えている。「ピューロランドの結婚披露宴はまだ日本語対応だけですが、今後は外国のお客様にも対応できるよう考えていく方向になるでしょう」(前出・真鍋さん) 円安効果も手伝って、ピューロランドが日本を代表する観光地となる日は近いのかもしれない。
2013.06.09 07:00
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「中国女性は容姿より浮気しないこと重視」と中国嫁日記作者
大人気ブログ『中国嫁日記』の作者、漫画家でイラストレーターの井上純一氏は、40歳のときに、ひとまわり以上年下の妻、月(ゆえ)さんと結婚した。「一生結婚しないだろうと思っていた」というが、若くてかわいい中国人女性に、オタク男は初対面から好意的に受け入れられた。2月末に刊行され、すでに3刷15万部になった『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(アスキー・メディアワークス)の著者でもある井上氏が、中国女性に人気の男性像について語った。 * * *――少し前に友人が「オタクの彼氏は浮気をしないからいいよ」と絶賛していたことがありました。オタク男を自称する井上さんから見て、それは真実だと思いますか?井上:オタクが浮気しないのは、近寄ってくる女がいないからですね。あと、自分で女性をひっかけようと思わないからです。近づいてくる女がいれば浮気すると思いますが、そんな女性はいない(笑)。オタクはめんどくさくて、男として魅力があるわけじゃないですから。それでも、オタクが浮気をしないという事実は正解だと思いますよ。――日本では今ひとつと評価されることもある、浮気をせずまじめなところは、中国の女性にはどう映るのでしょうか?井上:『中国嫁日記』(エンターブレイン)でも描いたように、中国で一番重要視されるのは、誠実なことです。浮気しないということは、かっこいいことよりも全然、重要なことです。――そこまで重視されるのは、浮気されるリスクが高いのでしょうか?井上:その通りです。中国では金が入ると、すぐに浮気します。日本円で月に5万円くらいのお金で女が囲え、お金のために体を開く女性が山のようにいる。そりゃあ、浮気しますよ。人間が多いというのはそういうことです。中国は人口が13億人ですが、実際には届け出されていない人を含めると16億人いると言われている。それだけ多くの人がいれば、色んな人がいる。そして人件費が安いですから、女性も安いわけですよ。――誘惑が多いなかでまじめというのは、とても重要なんですね。井上:儒教の教えが色濃く残っていますから、浮気しないのはとても重要なことです。もうひとつ、儒教の国らしい話としては、親を大切にするのは美徳だという認識があります。 中国ではいま、ひとりの男性を幾人もの女性が囲んで、点数をつけるテレビ番組が流行っています。減点法で採点していき、その点数が最後まで残っていたら、男性は交際したい女性を指名できるという仕組みです。 男性と、彼を取り巻く女性たちが質疑応答しながら、その内容を判断して印象が悪いと点数を下げます。基本、出演した瞬間からどんどん点数が下がっていくのですが、それが必ず止まるときがある。その好印象を与えるポイントが、日本じゃ考えられないようなことなんです。確実に点数が止まるパターンがあって、男に病気の親がいて看病をしているという話が明かされると、間違いなく全員の好感度が下がらない。――日本だと、親の介護をしている独身男性は敬遠されますね。井上:日本と逆なんですよ。その番組は公開放送なのでお客さんを入れているのですが、みんな、涙ぐんで感動している。病気の親を看病しているという誠実さが要求されるのが中国なんです。視聴者参加型の、こういったテレビ番組が中国ではとても人気があります。 もうひとつ、転職したい人がやってきて、その人に対して経営者たちが点数をつけ、一番高い点数をつけた人が雇うという番組も人気があります。視聴者参加で、人間に点数をつけるというのがすごく面白いと感じているようです。――中国では仕事がない人が増えているという報道が増えていますが、その影響がテレビ番組にも出ているのでしょうか。井上:日本と同じで、金になる仕事がないという話です。 たとえば、工員の半分しか給料をもらえないのに、事務職の求人をすると高学歴の人がたくさん応募してくるんです。高学歴なのに工員になっては、家に帰ったときに面子が保たないけれど、事務なら保つからというんです。こちらとしては、工員が足りないからそちらへ応募して欲しいのに来ない。贅沢病みたいなものです。日本とよく似ていますよ。急速にこちら側に来ていますよ。――若者はあっという間に、高度成長期の匂いがしない世代になっているのでしょうか。井上:世代が異なると、上昇志向が突然、無くなるんです。中国では生まれ世代ごとに呼び名があって、まったく別の性質を持っていると言われています。極端に変わるのは1980年代生まれの“パーリンホウ”から。何を考えているか分からず、贅沢に慣れていて楽してもうけようという気分が強いといわれています。 次が1990 年代生まれの“ジューリンホウ”。それまであった上昇志向がなくなり、好きなことをやって適当に稼げればよくて、自分探しとか自己実現を気にする。2000 年代生まれの“リンリンホー”に至っては完全にデジタルネイティブで、リアルよりもネットの人間関係が重要。若い世代ほどオタクが多くなりますね。中国のコミケみたいなイベントには、若い世代の人たちばかりです。――人を雇う側は、世代の違いで仕事の仕方が変わると承知していないとならないんですね。井上:工場の工員レベルでも違いが出ます。それこそ、水商売の女の人でも違うんですよ。昔は金のためだったら何でもやったのに、若い世代は嫌なことはやらない。嫌な客にはつかず、すぐに休んだりする。日本と同じようなことになっています。 ところが中国は広いから、田舎からやってきた子は生まれた世代の雰囲気とは違っている。若くても上昇志向があったり、家族へ仕送りするために仕事も休まない。今は、地方出身の少数民族が頑張っているんです。工場でも、頑張っている工員は少数民族が多い。 ただ、とても遠い田舎からやってこなければならないので、かなり人数が少ないんです。そのため、結局は近くの人間から集めて人数をそろえますが、だらだらとして働かない世代に悩まされています。■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。40歳で結婚した20代の中国人妻・月(ゆえ)の日常を描いたブログ『中国嫁日記』が1日に7万アクセスを数える人気を集め、2011年に単行本化。『中国嫁日記』1巻・2巻(エンターブレイン)は累計50万部を超えた。昨年4月から広東省東莞市へ移り住んでいる。最新刊は『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/アスキー・メディアワークス)。
2013.03.20 07:00
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