4度の兵役を経て、逓信省航空局で伊丹空港建設等に携わった松尾は終戦時、42歳。昭和13年の国策会社「大日本航空」発足以降、驚異的な進化をとげた日本の航空力を恐れるGHQは航空局にも閉鎖を命じたが、松尾は各航空施設の管理が滞れば困るのは占領軍だと直談判。航空保安部(後に庁)開設を許されると各地に散った技術者や操縦士を呼びよせ、日本の航空技術は解体を免れたともいえた。

 一方、外資各社は国際線の運航を開始し、あくまで国内線の自主運航を主張する松尾に対し、外資に託すべく動いたのが第二次吉田内閣の貿易庁長官・白洲次郎だ。吉田は言う。〈航空事業などというものは金のかかる贅沢な事業で、しかもひとつも儲からない〉と。

「確かに今聞くと一理ある気もしますが、もしあの時白洲さんがパン・アメリカン航空を誘致していたら、日本の空は他国の手に渡っていたかもしれない。戦争に負けて占領されていても日本の空には日本の飛行機が復活してほしいなって、やっぱり思うんです」

 そして昭和26年、GHQは国内輸送の営業部門だけを担う民間会社設立を1社に限り許可。藤山愛一郎率いる「日本航空」や、旧大日本航空を母体とするこれまた「日本航空」など5社が手を上げ、これらを一本化する形で、「日本航空株式会社」が創立される(その後、昭和28年に特殊法人化)。

 尤も〈飛行機を持てない航空会社〉ではパイロットも飛行施設も全て借り物で、銀座の営業所で搭乗手続をした乗客を羽田へ運ぶ車中、エアガールはバスガールも兼ねた。技術者は空港作業員、操縦士はパーサーとして働くが、操縦室に飲み物を運んだ彼らを米国人機長は口汚く罵り、乗客からは〈年とったボーイ〉扱いだ。

 そして昭和27年、全乗客乗員37名が死亡した〈「もく星号」事故〉は起きる。が、運航・整備をノースウェスト社が担い、原因不明のまま幕を閉じたこの〈占領下の変則が産んだ悲劇〉が、皮肉にも自主運航・自主整備の道を開くのだった……。

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