せっかく憧れの大企業の最終面接までこぎ着けたのに、当日にパニック障害を起こして面接をドタキャン。母親からは子どものころから一度も褒められたことがなく、中学では自傷行為を繰り返し大学卒業後は無職に。“人生詰んだ”も同然の状態から、どうやって起死回生して行ったのか? 話題の本の著者に、フリーライター・神田憲行氏がインタビューした。
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本はフリーライターの小野美由紀さんが書いた自伝エッセイ「傷口から人生 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎文庫)という。タイトルからドロドロしたものを連想していたが、前半がスペイン巡礼の旅で意表をつかれた。
フランスのピレネー山脈の麓から始まりスペイン北部の都市「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」まで続くスペイン版お遍路の旅「カミーノ・デ・サンティアゴ」という。毎年世界中から3万人を超す巡礼者たちが同じ道のりを歩きにやってくるそうだ。筆者が歩いた距離は500キロ。歩きながら考えたこと、他の国の人々との会話と、過去に抱えた屈折が交互に描かれていく。
《穴に落ちるマリオは、落下する瞬間、自分がいた地上の世界をどんな気分で眺めるんだろう》
といった文章にハッとさせられ、ラストの大聖堂に向かって一気になだれ込んでいく描写は感動的である。
小野さんは29歳で、この本がデビュー作になる。
--お母さんとのこと、自傷行為など、かなり赤裸々な告白もあります。逆にここまで書いて気持ち的にスッキリされたのでは?
「よくこの本を書いて“カタルシスがあったのではないか”と言われるが、全くそんなことないし、なにも感じないです。新人・女・無名という、本が売れない要素ばかりですから、とにかく、面白いものを書かなければ出版社に申し訳ないという切迫した気持ちで書いていました。だから、これを書いてトラウマが解消されたとかいうことは全くありません。
もう自分のこと書かなくていいんだって言う、一仕事終えたスッキリ感しかない。Amazonで書籍の総合1位とか取れば、もう少しスッキリするかもしれませんが」
--私は自分のために書かれたんじゃないかと思っていました。ではどういうお気持ちであそこまで書かれたんですか。
「特にありません。出版社から依頼を受けたので書きました。でも、あえて言うなら、私は、ブログで親子関係や、就活に失敗した体験談をこれまで書いているのですが、読者から悩みの相談メールをいただくことが多いんです。『自分も就活に失敗して辛い』とか、『母親を殺したい』とか。そういうメールに普段、私はめったに返事をしないのですが、そういう人たちへの、私からの『手紙』のつもりで書きました」
--就活の部分で興味深かったのは、良い会社に入らないと大学内で窒息死してしまいそうな閉塞感、一流大学(注・小野さんは慶応大学文学部卒)ならではの苦しさみたいなものがあることでした。
「私は東大落ちの慶応組なので、とくにこじらせ感はひどいかもしれない(笑)。就活はイベント化しているし、完璧な自分を演出しないと社会から受け入れられないという脅迫感を感じていました。当時はまだSFC(湘南藤沢キャンパス)なら『無名のベンチャーでもカッコイイ』みたいな空気もありましたが、三田(キャンパス)はどこに就職するのかで友人間での立場が変わるという空気もある。トップが外資系金融機関、その次に4大商社という歴然としたヒエラルヒーもあります。『4大から下の会社を受けて意味あんの?』という同級生もいました」