今やアニメでも大人気のベジタ坊は、元は漫画家に挫折した若者が農協の選果に漏れた野菜を擬人化した、負け組時代の村の象徴だった。やがてその人気は一人歩きを始め、ベジタ坊グッズが並ぶテーマパークや、人気ブランドが軒を連ねる〈日本初の「六次産業モール」〉がオープン。多岐川の元同僚で投資ベンチャー代表〈佐藤〉が内外で資金を募り、役場の出向職員らが運営にあたる〈箱物〉だが、県外の客も多く大盛況だ。

 問題は上元商店街である。〈福肉精肉店〉のコロッケは美穂たちの思い出の味で、最近は都会暮らしに飽いた若者が空き店舗で気ままな商売を始めてもいたが、客が来なくてはどうにもならない。そこに浮上したのが住宅や商業施設を効率的に配した再開発計画だ。そのファンド化を目論む佐藤の完璧な計画を前に賛成派と反対派が揉める中、果たして多岐川が繰り出した秘策とは?

「結局、町にモールが出来、便利にはなったけど、それだけで本当にいいのかと。仮に止村がそのまま近代化路線を突き進み、巨大化やチェーン化を進めたとして、美穂のように戸惑う人間は当然いる。あくまでそれは瀕死の体を標準に戻す方策であって、真赤な看板や黄色いロゴが埋め尽くす町に、皆さんは住みたいですか?

 一方でグローバリズムの恩恵も僕らは否定できず、だから藻谷浩介氏の『里山資本主義』みたいな考え方が注目される。高度成長からバブルを経て飽和状態にある今、モールの便利さも、肉屋のコロッケのローカルな良さも、どっちか一方だけじゃなく、両方共存するのが理想というか、そうせざるを得ないんじゃないのか、と思います」

 そもそも物事は考えれば考えるほど、結局は中庸・中道に寄ると黒野氏は言う。

「ネトウヨみたいな勢力を生む今の空気は危険だし、今の農協改革にしても、誰かを悪者にして叩くだけじゃ問題は解決しない。グローバル資本主義と地域に根差した〈草の根資本主義〉―この両方を共存させる知恵が必要です」

 その先に従来の成長とはまた違う成長の形が見えてくるのかもしれず、小説もまた「脱成長」「脱20世紀」への移行を模索しているのだろう。見事復活した止のその後を描く続編は、そのためにも必要だったのだ。

【著者プロフィール】黒野伸一(くろの・しんいち):1959年横浜市生まれ。2006年『坂本ミキ。14歳』(『ア・ハッピーファミリー』を改題)で第1回きらら文学賞を受賞しデビュー。『万寿子さんの庭』『長生き競争!』『ジョシカク!』等、恋する女子から、本作の〈虎之助じいさん〉のようなクセ者老人まで、幅広い人物造形力に定評。「14歳女子なら14歳女子、肥ったOLなら肥ったOLに憑依して書くので、物の見方も変幻自在です」。177cm、68kgと「体形も中庸をキープしてます」。O型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2015年3月6日号

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