知られざる専門誌の世界をあなたに──。今回紹介するのは、近頃人気の文房具の今を小売店やメーカーの立場で伝える、業界専門誌です。
【『月刊文具』】
創刊:1949年
月刊誌:毎月末発行
部数:非公開
読者層:文具・事務用品小売り店、卸業者など。文房具製造メーカー、文具売り場を持つ他業種小売店のバイヤーなど
定価:1080円
購入方法:年間購読による直接販売が基本で、発売元・月刊文具新聞社に直接注文。
「最近、文具売り場が華やかになったと思いませんか? きっかけは“不況”で、7~8年前から大手企業がノートと筆記用具の常備をやめ、各自で買うように、という方針を打ち出したことなんです」
『月刊文具』の編集長・真壁一弘さん(46才)は語る。毎日使うものを自分で買うなら、少しくらい高くても、使いやすいものがいい。その結果、個人向け文房具の売り上げが上がったというのだ。
たとえば、一昨年発売された「斜めに書く人のためのまっすぐノート」(324円/ツバメノート)は、企業は決して採用しなかっただろう。なにせ、本来、水平に並んでいるはずの罫線が55度右上に上がっているのだから。
「ノートの置き位置は正しく、でも文字は斜めに書きたい。そんな人向けに作って話題をさらいました」と真壁さん。
さらに、円安で外国人観光客が増えたことも文房具界には好材料だと言う。彼らは日本の文房具情報をネットで得て、お店に「○○ください」とピンポイントで買いに来る。
ちなみに、中国人観光客の一番人気は、書いた文字を摩擦熱で消せるボールペン「フリクションボール」(216円~/パイロット)。2007年に発売して、2014年にシリーズの世界累計が10億本を突破するヒット商品になった。
「ベーシックなキャップ式をはじめ、ノック式や多色タイプ、金属軸の高級タイプまで揃っていて、中国人たちがまとめ買いしていきます」
また真壁さんは、「文具メーカーには、ちょっと不思議な通例がいくつかある」とも言う。
「まず、他業種に比べて、メーカー間の仲がいいことが挙げられます。コラボした商品もけっこうあるんですよ」
もうひとつは、各メーカーの専門性。
「たとえば、子供にはなじみの深いサクラクレパスは、鉛筆やシャープペンも発売しています。でもその印象が薄い。人は、鉛筆→シャープペン→ボールペンと、年齢が上がるにつれ使う文具が変わってきますが、それぞれの消費者に強いメーカーがあるんですよ」
少子化のあおりを受けている学童向けの文具メーカーは、「だからこそ商品開発が活発」だと言う。
「ちょっと上から触ってください」と、真壁さんは15cmの学習用定規「ナノピタ」(162円/ソニック)をノートの上に置いた。軽く指先に力を入れてみたが、ピクリとも動かない。
「子供が線を引きやすいように、透明の滑り止めをつけて、今シリーズ初登場ながらたちまち話題となり、女子向けなども発売しています」
また、初めて鉛筆を握る子供が手になじみやすいよう素材に細工するなど、毎年、何かしら改良を加えているそう。
「中小のメーカーの中には、こうしたいい商品を作っても積極的に宣伝しないことがあるんです。それを見逃さないで紹介するのが、当誌の使命。ですから、全国の商談会に足を運んでいい商品を見い出していますが、『バイヤーより熱心』などと、文具のバイヤーにからかわれたりしています」
その真壁さんの「いち押し文具」は、昨年、日本文具大賞を獲得した、手のひらに収まるサイズの鉛筆削り器「ラチェッタワン」(324円/ソニック)だ。
「従来の一方向に回して削るタイプではなく、半回転の雑巾絞り式で軽く削れるのが特徴です。しかも、鉛筆を差し込むホールは、いったん閉じたら鉛筆の粉末すら出しません」と、目を輝かせる。
自分にとって“ぴかいちのボールペン”を選ぶ、究極の方法もあるそうだ。
「書きやすさは、使う紙によって微妙に変わります。だから、気に入ってるノートや手帳をボールペン売り場に持っていって、どんどん試し書きをすること。紙と手とペンの3つの相性がピタッと合うものを根気よく見つけてください」
その真壁さんは、どんなペンを持っているか。聞くと、出るわ、出るわ。16本入りのペンケースに、3本入りケースが2つ。「シャープペンにボールペン。万年筆に水性、油性…。それから新商品のペンを目にするとつい買ってしまって」と笑う。
こうしたマニアぶりに、編集助手をしている妻の妙子さん(46才)は、「書くペンは1本あればいい」と冷ややかな目を向けるそうだ。
※女性セブン2015年3月26日号