偉大な父親に同一化しようとするあまり過酷な最期を遂げたヘミングウェイの息子や、自分を見捨てた父に反発した中原中也の例を見るように、カギは〈ほどよい父親〉だ。女性の社会進出に伴い、昨今は同一化対象を母親ではなく父親に求める娘たちも多く、理想化した父親像に却って呪縛される〈アテーナー・コンプレックス〉も増えていると岡田氏は言う。

「知恵と戦いを司るアテーナーは父ゼウスの頭の中で鎧をつけた状態で生まれた処女神で、サッチャー元首相やヒラリー・クリントン前国務長官はその典型でしょう。優秀な彼女たちは父親に依存する母親を自らのモデルにできなかった分、女性として生きづらさを抱えていたり、父親とほどよい関係を築けなかった点では、横暴な父親との服従関係を引きずる女性と〝根〟は同じかもしれません。

 結局父親にしろ母親にしろ、子供の〈安全基地〉になれるかどうかなんですね。それは過干渉とも断絶とも違って、基本的には自立を促しつつ、困った時は手を差し伸べる心理的な安息地になれるかどうか。それには父と子が母親を取り合う局面も必要だろうし、その上で子供が両親の関係を尊重して自ら去るような、依存とはまた違う絆を努力して築くことも大事。要するに愛着というのは世話をしないと育たないんですよ。血だけでは絆にはならないので、ひたすら努力して築くしかないんです」

 さて、哺乳類の出産時に分泌される〈オキシトシン〉が母親の母性を支えるのに対し、父親では〈アルギニン・バソプレシン〉というホルモンが父性を支える。前者が優しさと静のホルモンだとすれば、後者は強さと動のホルモンで、面白いのは〈父親といえども、必要に迫られれば、ある程度“母性”が働く〉ことだ。

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