「つまり母性と父性を併せ持つ人間の父親は生物的にも極めて進化した稀な存在で、世の父親たちはそのことをもっと誇るべき(笑い)。母親が夫や子供に極端な理想を求めて失望したり、過剰に潔癖さを求める現代の風潮も、〈愛着〉のホルモン、オキシトシンと無関係ではない。
言うなれば寛大に受容する潤滑油、心のラブオイルが今は不足しているから気持ちがパサパサになり、相手の悪い面ばかり探してはバッシングして全否定する。医学用語では不安定型愛着といいますが、愛着が安定しないのは何も母親だけでなく、社会全体の傾向としてあると思いますね」
一方で行動力と猛々しさのホルモンが、なぜ父親に備わったかである。
「妻子を守るには攻撃性や恐さも必要で、だから敵視されたり、ヘタすればDVにも繋がるんですが、DV夫と決めつけた途端、問題の本質は逆に見えなくなる。今のDVプログラムもいかにもアメリカ流というか、被害者と加害者にラベリングすると、結局別れる方向に行ってしまいます。
ただ実際に話を聞いてみると、妻側の要求が高すぎたり、過敏な妻が過剰反応して夫を追い詰めていたり、双方に少しずつ問題がある。関係性の問題は関係性で見るしかないし、安易なラベリングで父親という機能を奪えば子供も母親も父親もみんなが損をするんです」
オキシトシンもバソプレシンも、四角四面で自分だけを守ろうとする自己愛的発想とは真逆にある。自分の意に沿わないものは全て排除する、親子関係に限らない愛着障害こそが、岡田氏が臨床の現場で最も危惧する現代の〝病〟なのだろう。
【著者プロフィール】岡田尊司(おかだ・たかし):1960年香川県生まれ。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒。同大学院医学研究科修了。医学博士・精神科医。京都医療少年院に長年勤務したのち、2013年岡田クリニックを開業。『悲しみの子どもたち』『脳内汚染』『アスペルガー症候群』『愛着障害』『発達障害と呼ばないで』などベストセラー多数。2000年には小笠原慧名義の『DZ』で横溝正史賞を受賞し作家デビュー。小説作品に『手のひらの蝶』『タロットの迷宮』等。171cm、65kg、O型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2015年4月10日号