テレビシリーズ『太陽にほえろ!』に刑事役に抜擢されたものの、演技のことをほとんどわからなかった俳優の勝野洋を指導したのは、劇中でも先輩刑事として後輩を指導していた「ゴリさん」こと竜雷太だった。役者として、人として大きな影響を受けた竜について語った勝野の言葉を映画史・時代劇研究家の春日太一氏が綴った連載『役者は言葉で出来ている』からお届けする。
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勝野洋はテレビシリーズ『太陽にほえろ!』の新人刑事・通称「テキサス」役に大抜擢された。演技のことはほとんど何も分からなかった勝野を指導したのは、劇中で先輩刑事・通称「ゴリさん」を演じた竜雷太だった。
「カーアクションが多かったのですが、僕は免許を取っていませんでした。お酒をよく飲むもんですから。それで、当時はいつも竜さんの横に座っていたと思います。竜さんはけっこう運転が上手いんですよ。
竜さんにはいろいろと教わりました。最初はボスに『はい』というセリフすら言えなかったんです。その時に竜さんが『外に出ろ』って。それで裕次郎さんたちに待っていただいて『俺に「はい」って言ってみろ』『はい』『それでいいんだ、できるじゃないか』と竜さんに教えてもらったんですが、いざ撮影隊の前に行くとどうしても不自然になってしまいましたね。
それから竜さんに言われたのは、『カメラがどこにあるのか意識しろ』ということでした。殴り合いの多い作品でしたが、カメラが横位置にいる時に相手の顔を真っ直ぐ殴ろうとすると当ててないのがバレるんです。相手の顔に被るように殴らないと、殴っているように見えない。そういう殴り方も、竜さんから教わりました。当時は今みたいにあちこちにカメラがあるのと違ってワンカメでしたから、そういう意識も大切だったんです。
これは、後に時代劇に出るようになってからも役立ちましたね。刀も、抜いた後で相手と交差させないと斬ったように見えないわけですから」
『太陽にほえろ!』出演後、勝野は一躍人気スターにのし上がっていく。そうした中で、勝野を戒めたのもまた、竜だった。