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江戸文化を象徴する墨田に博物館点在 たばこ屋のジオラマも

「たばこと塩の博物館」にて、近現代のたばこ文化史。時代背景と当時のポスターなどが並べられている

東京スカイツリーのお膝元である東京都墨田区といえば、古くは江戸・東京の下町を代表する地域として庶民の生活が栄えたことで知られる。その名残から江戸時代の文化を今に伝える博物館や美術館が点在している。

 例えば、江戸の町並みや祭りの山車、庶民の暮らしぶりなどが模型で展示されている「江戸東京博物館」は、昨年開館20周年を迎えて記念の浮世絵展が大好評を博した。

また、両国国技館の「相撲博物館」で錦絵や化粧廻しの貴重な資料が見られたり、東京メトロのCMにも登場した「すみだ江戸切子館」に立ち寄れば、伝統工芸の江戸切子硝子の製作体験もできる。

 新名所の博物館も続々と墨田区に集結している。錦糸町と両国を結ぶ「北斎通り」界隈は、その名の通り、江戸時代後期に活躍した浮世絵師の葛飾北斎が生涯過ごしたエリアといわれ、今年度中に「すみだ北斎美術館」がオープン予定だ。

 そして4月25日には、それまで渋谷の公園通りで35年間にわたり開館してきた「たばこと塩の博物館」が墨田区に移転してリニューアルオープンした。

 たばこはもともとアメリカの先住民が宗教的な儀式として吸っていたものであり、1492年にコロンブスがアメリカ大陸を発見した際に持ち帰ったことでヨーロッパに普及したとされている。

 では、日本に伝来したのはいつなのか。同博物館の主任学芸員である榊玲子さんに聞いてみた。

「16世紀後半の安土・桃山時代に南蛮貿易を通じて日本にたばこ文化が入ってきたといわれています。スペイン人の修道士が残した記述によれば、当時病気で伏見城にいた徳川家康にたばこの種と膏薬(こうやく)を献上したと書かれています。欧米ではたばこの葉が薬用植物として注目されていた史実も多いのです」

 種が日本に入ってくるようになったことで、急速に庶民の間にも広まったという。火鉢を囲んで刻みたばこを詰めたキセルを吸う――時代劇でよく見るあの光景だ。江戸時代の粋な文化のひとつとして、たばこは欠かせないアイテムだったのだろう。

「たばこ耕作は江戸時代の重要な産業のひとつとなり、各藩の収入源にもなっていました。しかし、農民がたばこばかり栽培して米を作らなくなってしまうと、幕府は禁止令を度々出したものの、いたちごっこだったようです。

たばこの流通だけでなく、様々なタイプの喫煙具や『たばこ入れ』、『たばこ盆』などが美術工芸品として発達するようになり、大名から庶民の間まで嗜好品としてのたばこ文化が定着していましたからね」(榊さん)

 ちなみに、同博物館では国内外で使用されていたおよそ700種類もの喫煙具やたばこ関連の美術工芸品が展示されており、その繊細な形状と装飾の美しさに目を奪われる。さらに、江戸時代の本所(現在の墨田区)の「たばこ屋」をイメージしたジオラマもあり、当時の町並みを感じることができる。

 明治時代になると、富国強兵策を進めるための貴重な財源として、たばこの販売が政府によって管理されるようになる。

「日露戦争が勃発した1904年には『煙草専売法』が施行され、葉たばこの生産から販売まで大蔵省専売局が管理するようになりました。そして、いわゆるたばこ税となる専売納付金が戦費の調達に当てられ、後の第二次世界大戦でもたばこ税が重視されました」(同前)

 戦争と復興、そして人々の癒しや活力。歴史の転換点でたばこがいかに大事な役割を果たしたかがうかがえる。戦後の高度経済成長期に「今日も元気だ たばこがうまい」のキャッチコピーが流行ったのも、たばこ文化が変わらず国の発展と密接に結びついてきたことの証だ。

「いまは健康志向の高まりで世界的に規制の動きが広がるなど、たばこを取り巻く環境は大きく変わりました。しかし、日本の近現代史を学ぶうえでたばこ文化の変遷も知ってもらえればと思います」(同前)

 スカイツリー観光もいいが、少し足を延ばして古き時代にタイムスリップできる博物館巡りも、また趣深い。

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