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「ぐりとぐら」作家の子供論 叱る時や励ます時の決めセリフ

『いやいやえん』『ぐりとぐら』で知られる作家、中川李枝子さんは、作家になる前、東京の「みどり保育園」で十七年間、「保母」(現在の保育士)として働いていた。『子どもはみんな問題児。』はその体験から生まれた子ども論。実際に何人もの子どもに接して来た人だけに、優しく説得力がある。

「みどり保育園」は、園長と中川さんが始めたという。最初に園長はこう言った。

「この仕事は儲らない。だからその分、子どもからもらえるものはもらっておいて、そして楽しまなきゃ損よ」

 実際、子どもが好きな人間でないと務まらない仕事だろう。園長はこうも言った。

「わが子を他人に預けるにはすごく勇気がいる」
「保育園を信頼しているから子どもを預ける。私たちは、お母さんの信頼を絶対に裏切るわけにはいかないのよ」

 こんな考え方も面白い。

「みどり保育園」では「面倒なことは一切やらない」。「園だより」も出さないし、毎日の連絡帳なんてない。

「必要事項はぜんぶ口で伝えていました。今日の出来事でも、子どものちょっとした一言でも、お母さんに言いたいことでも。紙に書いたり、書いてあるものを読んだりするよりも直接顔をみて話すほうがいいでしょう」。

 人と人のじかのコミュニケーションを大事にしている。園では給食はなし。そのかわり母親が弁当を作ってくること。子どもは母親の作ってくれる弁当を楽しみにしているのだから。贅沢と言えば贅沢。仕事を持っている母親は大変だろう。

 園長には、学校に上がる前にこれだけは出来るようにと決めていたことがあった。鉄棒の逆上がり、棒登り、跳び箱、プール、でんぐり返し。子どもたちは遊びながら体得していった。

 子どもたちが保育園に行くのは、親が働いているから仕方なく行くのではない。自分が行きたいから行く。それでも、中川さんは、言う。「でも、子供にとっていちばんの安全地帯はお母さんと我が家です」。

 だから子どもを叱る時は「そんなことをしたらお母さんが悲しむでしょう」、励ます時は「お母さんが喜ぶわよ」と言う。「お父さん」の影が薄いのは少し寂しい。

文■川本三郎

※SAPIO2015年6月号

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