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【著者に訊け】吉田修一 産業スパイ小説『森は知っている』

【著者に訊け】吉田修一氏/『森は知っている』/幻冬舎/1500円+税

 純文学から娯楽大作まで、境界なく活躍する吉田修一氏にして、初のスパイ小説『太陽は動かない』(2012年)。その前景ともなる鷹野一彦シリーズ第2弾『森は知っている』が刊行された。

 人はスパイに生まれるのではなく、人がスパイになる以上、鷹野にも当然だが幼少期はあった。が、父親は虐待を繰り返して離婚、母親は4歳の彼と2歳の弟を大阪市内の自室に監禁して姿を消した。窓や扉に目張りをし、菓子パン3つと水だけを残して。餓死した弟を抱いて発見された彼は、11歳の時、産業スパイ組織〈AN通信〉に引き取られ、〈自分以外の人間は誰も信じるな〉と教育されて育つ。

 本書は17歳になった彼が、石垣島の南西にある〈南蘭島〉で、級友らとささやかな交流を持つ青春期を描く。大自然の中、太陽は燦然と輝き森は何でも知っていた。

「元々スパイ小説を書くつもりは全くなくて、最初は大阪で2010年に実際に起きた幼児虐待事件で、監禁されたまま亡くなってしまった、あの子たちの話が書きたかったんです。

 ただ当初は僕もあの事件を外側から見ていたからか、彼らを救ってあげたいという、どこか傲慢な考えだったのだと思うんです。それがある時、彼らが閉じ込められた部屋の内側に、自分がスッと入れた感覚があって、あ、この子たちは悲しいとかじゃなく、とにかく外に出て遊びたいんだと思ったんです。そこからです、その部屋を出た子供たちがいろんな国でいろんな経験をするこの三部作の構想が一気に広がったのは」

 前作では鷹野や神出鬼没のライバル〈デイビッド・キム〉らが宇宙太陽光発電の開発利権を巡ってサイゴン、天津、内モンゴル等で繰り広げる諜報戦を描き、その最後に後見役の〈風間〉によって明かされるのが、前述した虐待の事実だった。

 どこか超人的な彼にそんな過去があること自体衝撃だったが、胸に〈小型爆弾〉を埋め込まれ、毎日正午の連絡を怠れば自動的に抹殺される諜報員は大半が元孤児。島でのどかに暮らす鷹野や同級生の〈柳〉も18歳になれば爆弾を仕込まれ35歳まで自由はない。

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