──しかし、ダライ・ラマがいなくなったら、チベットの人々はどのようにしてチベット仏教を信じていけばよいのでしょうか。
「私たち仏教徒は2600年間、釈迦を信じ、釈迦の教えに従ってきました。しかし、いま釈迦はいません。チベット仏教徒である私たちは大乗仏教中観派の祖である龍樹の弟子ですが、龍樹もいません。このように、私を信じる人も、私がいなくても困らないのです」
──それでは、チベット仏教徒はあなたの代わりに、何に頼ればよいのでしょうか
「釈迦自身が語ったとされる仏典は100冊以上あり、5世紀ごろ、インドのナーランダで創設された最大の仏教学院で編纂された釈迦の教えそのものに関する教典は225冊に上ります。チベット仏教の僧はこれら300冊以上の教典を正式なテキストとして使っています。これらの膨大な教典を真剣に学べば、今後数世紀にわたってもチベット仏教の正統性が維持されるのは間違いありません。
私は30年前から世界中の科学者と真剣に討論を繰り返してきましたが、そのなかで、仏教徒と科学者の思考が極めて似ており、仏教の教えのなかにも極めて科学的なものがあることを発見しました。私は15年前から、チベット仏教の僧が学ぶカリキュラムに現代科学を加えています。彼らは最終試験で、仏教の経典のほか、現代科学の試験も受けなければならないのです」
※SAPIO2015年7月号