国内の変形性膝関節症の患者は、2000万人以上と推計され、高齢化とともに増加している。膝関節の間の軟骨がすり減って痛みを感じ、重症化すると人工関節置換術(ちかんじゅつ)を受けることもある。
そこでヒト幹細胞を使い、膝の軟骨を再生させる臨床研究の結果が報告された。患者自身の軟骨の一部を採取して培養し、シート状にしたものを軟骨に貼る治療法だ。実施した全員の軟骨が再生し、日常生活に不自由しないばかりか、スポーツもできるまでに回復している症例もある。
臨床研究を行なった東海大学医学部付属病院整形外科の佐藤正人教授に話を聞いた。
「研究当初は、採取した軟骨の細胞をスポンジ状の人工材料の中に入れて培養しましたが、培養に時間がかかり、質のよい軟骨ができませんでした。その後、軟骨の欠損の表層に蓋をすれば、軟骨が修復することがわかり、欠損している孔を覆うように細胞シートを移植しました。3か月程度で硝子軟骨という質のよい軟骨が再生していることが確認できました」
治療は関節鏡を使い、患者の膝に残っている軟骨の細胞を採取する。それを培養してシート状にし、5センチほど膝を切り、細胞シートを移植する。細胞シートからは、サイトカインや増殖因子などの液性成分が滲み出し、幹細胞が軟骨の再生を促す。臨床研究は20~60歳で、外傷または加齢によって生じた4.2平方cm以下の欠損を持つなど、いくつかの条件をクリアした患者8人を対象に実施された。
効果はあったが問題もある。患者自身の細胞を使うには、2回も手術が必要なのと、患者によって細胞が活発な人と、そうでない人の差が出てしまい、使用する細胞シートの量に、ばらつきがあった。