「安倍さんが岸総理の安保改定は正しかったと論じることはあっても、核武装を言い出すなんて。彼は、そんなタカ派ではなかったと思う」
そう一様に首を傾げた。
祖父の岸も首相時代、参院予算委員会で「核兵器とつけばすべて憲法違反だということは、憲法の解釈論としては正しくないのじゃないか」と答弁し、小型の戦術核の保有は違憲にあらずの見解を表明している。
筆者はこの頃から、安倍が岸の言葉や思想を借り、“タカ派のニューリーダー”として意識的に自分を装い始めたと考えている。
首相になってからも、安倍は中国からの批判に応えて「もし私を右翼の軍国主義者と呼びたいのならどうぞ」(2013年9月のニューヨークでの演説)と口にした。今国会での安保法制審議でも、野党議員に「早く質問しろよ!」とヤジを飛ばすなど、唯我独尊的な言動が一段と際立ってきた。
自民党内でさえ「数もあるから、どうしても傲慢になってしまうのだろうな」との声が聞こえてくる。
無論、政治家として「正しい」と信じる道を進むことは重要な姿勢であるが、これが本当に長い時間と勉強を元に練り上げた信念なのか、筆者には疑問が残る。
そして、強いリーダーであると同時に、反対意見に耳を傾け、自説を修正しながらコンセンサスを取り付ける議会制民主主義の鉄則をないがしろにして成功した政権はかつて一つもない。
「両岸」と言われた祖父・岸や、「外交はタカだが内政はハト」を信条にした父・晋太郎はその鉄則をわきまえた政治家だった。自説を曲げず「お友達とお追従に囲まれて『我が道』を行く」(自民党長老)ような安倍の振る舞いや政治手法は、国のトップの有り様として疑問符を付けざるを得ない。
※週刊ポスト2015年6月19日号