昭和39年は、馬場が2回目のアメリカ長期ツアーから凱旋帰国し、日本プロレスのエースとなった年。猪木は海外修行中だった。馬場は昭和16年生まれの徳光氏よりも3つ年上だったが、徳光氏は馬場に対してプロレス中継番組の“同期”という感覚を抱いた。

「清水さんの『2m9cm、134kg、世界の巨人、ジャイアント馬場がトップロープをひとまたぎして入場』という実況を聞いてカッコイイなあ、と思いましたね」

「レスラーの強さは、技を受ける強さ。技を仕掛けられた選手の受け身、受ける選手の痛さをしゃべったほうが観ている人たちに伝わる。それを心がけました」

「馬場さんは耐えて耐えて、忍んで、力を温存して、攻撃しているほうが疲れてきたころを見計らって最後に逆転するという美学を持っていた」

 リング上にいる馬場は、スケールの大きいプロレスラーで、リングを降りた馬場は「ロマンがあり、人間的に魅力のある方」。徳光氏は馬場から「よく考えて、二の足を踏め」という格言を授けられたのだという。

「才能があったのは猪木さんで、馬場さんは努力の人。猪木さんが長嶋茂雄で、馬場さんは王貞治だった」

■斎藤文彦(さいとう ふみひこ)/1962年東京都生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科修了。コラムニスト、プロレス・ライター。専修大学などで非常勤講師を務める。『みんなのプロレス』『ボーイズはボーイズ-とっておきのプロレスリング・コラム』など著作多数。

※週刊ポスト2015年6月19日号

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