李はもともと水力発電の専門家で、中国の大型ダム建設に関わる一方、政治手腕を発揮して首相にまで上り詰めた。権力を利用して電力関連の利権を一手に握る「電力閥」の総帥として知られる。長男や長女も電力関係の大手国有企業のトップを務め、父親同様にグレーな噂が多い。
その李は今、“死の床”にある。昨年9月末の国慶節(建国記念日)のレセプションに姿を見せて以来、動静は伝えられていない。北京の病院に入院し、この数か月間、重篤な状態にあるとの情報が流れている。
そのような折に、長女で「エネルギー・クイーン」と呼ばれる李小琳が6月9日、北京の空港から香港に向かおうとしたところ当局に止められ、「出国禁止命令」が出ていると告げられた。小琳はあまりのショックに茫然自失したという。
香港行きは自身がトップを務める中国電力投資集団の取締役会議に出席するためだったが、同社はホームページで小琳が会議を欠席したと公表。様々な憶測が飛び交い、小琳への出国禁止措置も広く知られることになった。冒頭の「東方之星」転覆と三峡ダムに絡む口コミや、小琳に関する情報の出方から見ても、「意図的な情報操作とみて間違いない」と前出の共産党筋は指摘する。
同筋によると、これには伏線がある。小琳の出国禁止騒ぎの2日後、収賄と職権濫用、国家機密漏洩の罪に問われていた周永康・前党政治局常務委員の判決公判が開かれ、無期懲役と政治的権利の終身 奪、個人財産の没収などが言い渡された。党最高指導部を形成する政治局常務委員経験者が汚職で無期懲役刑を受けたのは初めてのことだ。
党機関紙「人民日報」は翌日、1面に掲載した評論員論文で「誰であろうと法律を超える特権はない」と報じた。習近平指導部は最高幹部経験者であろうとも、腐敗には厳罰で臨むとの姿勢を改めて強調した。
◆レポート/ウィリー・ラム
◆翻訳・構成/相馬勝(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2015年7月10日号