さらに、私たちの資産はほとんどが円建てですから明らかな損失で、国富総額(国の資産総額)も一人あたりの国民所得も、40%目減りしてしまったのです。
政府は観光業収入が増えたと胸を張っていますが、それは「4割引きの大バーゲンセール」をどう考えるかによります。
1泊1万2000円のホテルは、海外から見ればかつて150ドルだったのが、今は90ドル台です。お土産もすべてそう。4割引きなら行かなきゃ損、買わなきゃ損、ということで「爆買い」が至るところで見られます。日本に失業者が溢れていれば別ですが、みな、他のお客さんへの仕事を犠牲にして、海外からの観光客にバーゲンセールを行なっています。
つまり、国内消費者の私たちに商品は回らず、観光客だけがおいしいもの、良い商品を安く買っていくのです。日本ファンは増えるでしょうが、日本人は確実に貧しくなっています。
象徴的なのが不動産です。香港やシンガポール、台湾の個人が、1億円のマンションを5戸も10戸も買い、一番良い間取りの3億~5億円の部屋も彼らが全部買います。最も良いものの多くは彼らが4割引きで買い、日本人の手には入らなくなってしまいます。温泉もスキーリゾートも、水資源も同じです。喜ばしいこととはいえません。
●小幡績(おばた・せき)1967年生まれ。1992年東京大学経済学部卒、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2003年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。『円高・デフレが日本を救う』など著書多数。
※週刊ポスト2015年7月31日号