銀行も、地道にものづくりをする工場にお金を貸すより、不動産を担保にして高齢者に相続税対策で質の低いアパートを建てさせることに融資しました。その方が断然儲かるからです。
高齢者にとっても相続税対策になりますし、地価は右肩上がりでしたから、長生きすればそのアパートを壊して更地で売り払って大儲けできます。大儲けを狙って、駐車場にして転売を待つ人も多かったのです。
これは日本経済にとって明らかに悪いことです。貴重な土地を有効利用せず、ただ値上がりを待つだけだからです。
地道に美味しいメニューを提供する庶民的なフランス料理店が高騰する家賃を払えなくなり、ボロ儲けを狙う高級フランス料理店に取って代わられます。そうした店はバブルが崩壊すると誰も見向きもしなくなり潰れます。
それだけなら良いのですが、今度は美味しいフランス料理を食べようと思っても、リーズナブルな名店の多くが世の中から消えてしまっているのです。普通の洋服や家電製品に至るまで、新しい状況に対応するのに時間がかかり、長期の不況に陥りました。状況に対応した良いサービスや商品を生み出せる企業が激減し、経済の成長力が弱くなってしまったのです。
景気が良かった分の反動だけでなく、いつの間にかバブルにより企業の実力が落ちてしまったのです。これが日本がバブルから立ち直るのに予想以上に時間がかかってしまった理由です。現在の株価上昇も同じような気配があり、今後激しい株価上昇(バブル)になれば二の舞となるかもしれません。株が上がって良くないこともあるのです。
●小幡績(おばた・せき)1967年生まれ。1992年東京大学経済学部卒、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2003年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。『円高・デフレが日本を救う』など著書多数。
※週刊ポスト2015年8月7日号