主役・伊藤歩が光っている。以前『昼顔』(フジ)で夫の不倫に気付き嫉妬する妻という怖い役を実に怖く演じていたあの人。しかし『婚活刑事』では、まったく別のコメディエンヌの顔を見せている。
ご存じのように、コメディほど上手に演じるのが難しい領域は無い。面白がらせよう、笑わせようとすれば、その自意識ばかりが目立ちドタバタとウルサイだけ。しかし伊藤歩は、この女刑事の奇妙な立ち位置をよく把握している。人物像を距離をとって観察している。だから、シュールな役柄をイキイキと躊躇なく、自由にパワフルに演じることができる。ハジけているのだ。いったいこれからどんな驚くような役柄をやってくれるのかと、期待が膨らむ。
また同僚のエリート刑事を演じる小池徹平も、クールな人物に成りきっている。それが主人公との間にくっきりとした対比を生み出し、娯楽世界を膨らませる。
徹底した遊び心、技巧的な脚本、ハジケた役者が新鮮な『婚活刑事』。それは、今どきの職業ドラマのまったくもって逆を行く、ある種の職業パロディドラマ。それが面白ければ面白いほど、多くの職業ドラマの浅薄さが浮き上がるという皮肉。
『天皇の料理番』のように、とことん本格的なリアリティを追い求めるドラマか。あるいは、『婚活刑事』のように、徹底してその職業を道具化して反転させてしまうか。「職業ドラマ」が成功するためには、いずれかの方向を選ぶ覚悟とそのための方法とが必要なのだろう。