先の日経新聞には一応こうある。
〈積極姿勢の背景にあるのは人手不足だ。経済産業省は家事代行サービスの将来の市場規模は2012年度比6倍の6000億円に成長すると試算している。これに対し各社の従業員はパートの高齢者層が中心。担い手の確保が課題だった〉
人手不足。本当?
これといった高度なスキルなどを持たない日本の中高年女性の仕事探しは、めちゃくちゃ大変だ。その辺はなぜスルーされるのだろう。家事代行サービスで外国人を使う場合、日本人の場合と同水準以上の賃金を払わなければならないと定められるそうだが、だったらわざわざ外国人じゃなくて日本人を雇えばいいではないか。家事代行サービス会社がきちんとプロとしての教育を、仕事のない日本人女性に施せばいいじゃないか。
ある家事代行会社の社長が、インタビューでこう答えていた。
〈お客様側でも日本人同士だと気を遣うので、プライバシーの問題などから若いフィリピン人を敢えて希望される人もいます〉
プライバシーの問題と若いフィリピン人がどう結びつくのか、私にはちっとも分からないのだが、〈日本人同士だと気を遣う〉というのはなるほどだ。同朋に頼むのは気が引けるが、フィリピン人とかだと気が楽。家事代行というのはそういう種類の仕事だと思っている日本人が多いのだろう。
別の家事代行会社の公式HPには、〈日本人家政婦のデメリット〉を2つ挙げている。
〈他人に自分の日常を覗かれている感覚がある〉
〈年配の方が多く、仕事を頼みづらい雰囲気がある〉
えっ、フィリピン人なら自分の日常を覗けない、というわけ? だとしたら、それはかなり低レベルな差別感覚だ。年輩に頼みづらいのは、やはり家事代行は「下っ端」にやらせるものだからか?
はっきり言わせてもらおう。
職業に貴賤はなくても、上下はある。家政婦なり家事代行なりという仕事を下々のやることだと捉える人はたくさんいる。日本は階級社会の歴史をあまり持たない。だから、自分の日常の世話を下々にやらせる文化があまり発達していない。ゆえに、家政婦を雇うにもどこか後ろめたいものを覚える。
その点、外国人なら気が楽だ。だって、大きな声じゃ言えないけど出稼ぎをしないと困る国の人たちなんでしょ、雇ってあげるのも彼女たちのためだわ、外国人の家事代行サービスを早く全国解禁していただけないかしら、オホホホ的な人間心理が透けて見えて気持ち悪いのだ、このニュースは!
ここから先はオマケだが、日本にはフィリピン人女性を性風俗の世界でこきつかった「ジャパゆきさん」の黒い歴史がある。そんなこともちょっと思い出す。性風俗と家事代行が違う仕事であることは分かっているが、雇う側の心理としては重なる部分もあるのではないか。
あるいは、こんなことを考えてみる。業務命令となれば「承知しました」と何でもこなす『家政婦のミタ』という人気ドラマがあった。筒井康隆の「七瀬三部作」の主人公も家政婦として様々な家庭を渡り歩く人。火田七瀬は人の心を読む力を持つ超能力者、テレパスだった。彼女たちは日本人の中に潜在している家政婦に対する後ろめたさが生んだキャラクターだと思う。
これからどんどんフィリピン人の飛びきり優秀な家政婦たちが入国してくることで、ミタや七瀬を超えるどんな驚愕キャラが生れるのか。創作者はヒントにしない理由がない。