『警部補佃次郎』(日本テレビ)、『温泉医(ぽっかや)殺人事件カルテ』(テレビ朝日)など、二時間ドラマでの主演作が数多い。これらのドラマでは、時代劇での凛々しさから一転、どこか朴訥とした人情派として演じている。
「下手するとすぐに時代劇になっちゃうので、現代劇をやる時は『どうしようか』って、よく考えます。それで、あまり前向きでギンギンの男として演じるのはやめようと思いました。フニャっとしたのもいいんじゃないか、と。そういうキャラクターが謎を解いて凄い事件を解決するのが面白いと思ったんです。それで二枚目はやめようと。
それこそ森繁久彌さんの言っていた『しなやかな柳』じゃないですが、あまり角がない、カチンカチンな感じのしない芝居を心がけています。ただ、自分の中には染みついた嫌な部分があるんですよ。黙って台本を読むと、すぐに二枚目で読んでしまう。本当はセリフをもっと裏読みしないといけないのに。
このセリフをどう受け取るか。この時に、この男はどういう気持ちでいるか。そういうことを考えるんじゃなくて、二枚目としての決まったスタイルの喋り方で行ってしまう。ですから、それだけは絶対にやめようと思っています。結果として、違う意味での二枚目になればいいんです。
自分としては、『こんな奴いないよ』と思うような役はやりたくない。『こういう人、いるよね。面白いね』というような役じゃないとできません。たとえばワルをやるにしても、『結果としてそうなってしまった』という、意味があって悪いことをしているようなワルがいいですね」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年9月4日号