そして外国公館に対する侮辱・嫌悪施設として国際法違反にあたる慰安婦像と反日デモ・集会の長年の放置。これまで火炎瓶、糞尿、生卵、石、ペンキ、首を切った血だらけの鶏……あらゆるものが投げつけられ、小型トラックも突っ込んできた。
旧日本大使館は5階建てでいわば旧式の雑居ビル風だった。周囲はガラス張りの高級・高層のビジネスビル群に囲まれ、ひときわみすぼらしい。ソウルにある日米中露の4大国の大使館の中では建物の規模、内容とも最小、最低だった。在韓日本人の間では以前から「韓国人は大きいモノにひれ伏す権威主義社会。大使館があんなにみすぼらしいから日本はバカにされ、反日デモにも襲われやすいのだ」と不満の声が強かった。この機微が分からない日本政府の怠慢は痛恨だった。
やっと新しくなる日本大使館はそれでも6階建てだ。古宮近くで法的に高度制限があったからという。周りの高層ビルはその法ができる前の建築許可だったからいいのだとか。これも見ようによっては日本イジメみたいなものだ。
5年後にできる周囲を高層ビルに囲まれた小さな6階建ての新・日本大使館が楽しみだ。相変わらず玄関前に慰安婦記念像はあるのだろうか。韓国社会の国際的常識と礼儀がどうなっているか。日本の外交力が試される。
■文/黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)
※SAPIO2015年10月号