カンヌ国際映画祭「ある視点部門」で日本人初の監督賞を受賞した


黒沢:ご本人には大変申し訳ないんですけど、全然変わっていなかったですね。浅野さんのまんま。不思議な俳優ですね。つまり、ふだんからあんな感じで、浅野忠信のまんまなんですよ。じゃあ映画に映っているのは浅野忠信かというと、今回の映画で言えば完全に薮内優介というキャラクターになっている。香川照之さんがおっしゃってたことなんですけど、いかにも浅野さんらしいなというエピソードがあります。

――どんなエピソードですか?

黒沢:映画『剱岳』の撮影時のこと。突然、浅野さんが長々と話し始めたので、香川さんが「うわぁアドリブだ!」と必死でそれに応えたそうなんです。ところが、終わって香川さんが脚本を読んだらまったく脚本どおりだったって。つまり、脚本どおりの台詞なのに、浅野さんが言うとアドリブのように聞こえる。(キャラクターではなく)浅野さん本人が言っているようになっちゃう。俳優仲間の香川さんでさえ、「アドリブが始まっちゃった」と思ってしまうほどの特殊な才能です。今回もそうでした。ほとんど脚本どおりなんですけど、浅野さんが普通に言っているとしか思えない。なんなんでしょうね。ある種の天才です。

――浅野さんは20代の頃、インタビューしてもなかなかお話されませんでしたが、今はまったくそんなことがないですよね。

黒沢:えぇ、寡黙ではいらっしゃるんですが、しゃべるとなると誠実にしゃべってくれるんですよね(笑い)。

――黒沢監督は俳優にあれこれ指示しないタイプだと思いますが、お二人に何かリクエストはしなかったんですか?

黒沢:はい、指示もしませんが、撮影前のリクエストもほとんどしていません。今回撮影前にミーティングをしたときに、「大体こんな感じでいくと思います。よろしく」と。脚本をお渡ししていましたので、「何か質問がありますか?」と聞いたら、お二人は「特に何もありません」って。「浅野さんは特に、幽霊なのに存在しているという理屈では大変わかりづらい妙な役ですが、何かやりづらそうなところかありますか?」と聞くと、「何もないです」という答えでしたね。

――ご自分の中でキャラクターがすでにでき上がっていたんでしょうか。

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