浅野忠信と深津絵里が夫婦の絆を演じ切る (C)2015「岸辺の旅」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
黒沢:ちらちら見ると、いい感じの親しさと距離感を保とうとしていらっしゃいました。この映画がまさにそのような距離感の中で二人が一喜一憂するというものでしたから。でも、ある撮影の日に朝からやけに二人は親しそうに、いつになく陽気に話している日があったんですよ。その日は夜、ラブシーンを撮ることになっていた。それを意識してか、とても仲良くしゃべっていました。
――撮影後にみなさんで飲みに行ったり、ということはなかったんですか?
黒沢:そういうことはありませんでした。そもそも浅野さんはお酒は一滴も飲めませんし。ぼくはそういうことをしないんですよ。だって、プライベートで知っている方に「ラブシーンをやってくれ」とは言えないですよ。「殺人鬼やってくれ」とも言えないし。現場は仕事ですし、ご本人と全然違う役を演じてもらうのに、その方の日常を知ってしまうのは、私はあまりよくないことだと思っています。
【黒沢清】
1955年7月19日生まれ、兵庫県出身。1997年の『CURE』で国際的な注目を集める。『回路』(2000年)で第54回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞、『トウキョウソナタ』(2008年)が同映画祭「ある視点部門」審査員賞を受賞するなど、国内外で多くの賞を受賞。東京藝大大学院で指導するなど、後進の指導も行う。
◇『岸辺の旅』
湯本香樹実の同名小説を映画化。ある日、薮内瑞希(深津絵里)のもとに、3年前に失踪した夫・優介(浅野忠信)が現れる。「俺、死んだよ」という優介に誘われて、瑞希は死んだ夫が世話になった人々を訪ねる旅に出る。死者である夫と生者である妻が旅することを通じて夫婦の絆を描くラブストーリー。10月1日からテアトル新宿ほか全国ロードショーをテアトル新宿ほか全国公開中。
撮影■林紘輝