中村には、ある種の恐怖もある。
「役者をやるときは、監督がいたり脚本家がいたり、共演者がいたりして、みんなでつくろうというのがあるけど、歌は、自分の意志が直接強く伝わるところもあって、それだけ怖くもあるんです。
すごく売れたバンドが、ある年は武道館でやったけど次の年はまったくダメだということもあるじゃないですか。いいパフォーマンスを見せないと、一気にお客さんは来なくなると思うんです。そういう厳しい現実があるということも知っているので、集中は切らせたくないんです」
今年のツアーでは、中村は自らにクロマチックハーモニカを吹くことも課した。ある意味、「勇気ある挑戦」だが、64歳を迎えてもなお新味を加えようというところに音楽への意気込みが見てとれる。中村雅俊は、歌い続けることに使命すら感じている。
「俺は、ひょんなことから人前で歌うようになったわけだけど、そういうふうに歌えって誰かがいっているんだと思うんです。そんなミッションを抱えて俺は40年以上やってきたわけで、まだまだ、走るのをやめる気はないし、そのミッションを最後まで全うしたいと思っているんです」
◆中村雅俊(なかむら・まさとし):1951年2月1日生まれ。1974年、文学座に入団し同年のドラマ『われら青春!』でデビュー。自身が歌う挿入歌の『ふれあい』も大ヒットとなる。俳優、歌手としての活動のみならずテレビやラジオでもマルチに活躍する。コンサートツアー「COLOR OF HEART」は12月25日まで全国で開催。7年ぶりのニューシングル(東建コーポレーションイメージソング)『はじめての空』が発売中。
取材・文■一志治夫 撮影■江森康之
※週刊ポスト2015年10月30日号