ライフ

【書評】虚飾なしに全共闘運動時代を回想する本物のカリスマ

【書評】『私の1960年代』山本義隆/金曜日/2100円+税

【評者】坪内祐三(評論家)

 私が特別に早熟な少年だったというわけではなく、しかし私とちょうど一廻り年上の従兄弟が東大生だったこともあって、私はいわゆる全共闘運動をリアルタイムで記憶している。その運動に二人のカリスマがいたことも。一人は日大の秋田明大、そしてもう一人は東大の山本義隆だ。しかも二人共、その運動について語ることはなかった。

 高校を卒業し浪人生となり神田お茶の水の駿台予備校に通ったら、物理の講師に山本義隆がいて驚いた(私自身は文系だったから教わることはなかったけれど)。とても良い先生として評判だった。

 運動から十年、二十年、三十年つまり一九七八年、八八年、九八年にそれを振り返る雑誌やテレビの特集が組まれたが山本義隆や秋田明大が登場することはなかった。

 山本義隆はその後、みすず書房を中心に次々と大著を刊行して行く(『磁力と重力の発見』全三巻は大佛次郎賞と毎日出版文化賞を受賞する)が、相変らず運動を振り返ることはなかった。その山本義隆の回想集『私の1960年代』が刊行された。

「率直に言って、私が大学に入ったのはただひたすら物理学と数学の勉強をしたかったからなので、ほとんどノンポリです」という山本氏が学生運動に入って行ったきっかけは入学した年に出会った六〇年安保反対運動だった。そして全共闘(東大闘争)の時に代表に選ばれたのは、「どの党派の色もついていない安全パイみたいなもので、消去法で選ばれたのではないかと思っています」。代表になってからは「良かれ悪しかれ、調整役としての役割に終始していました」。

 カリスマでありながら、このようにハッタリがなく、淡々と書き進められて行くので、だからこそこの人は本物だと思わせる。

 当事者ならではとうなったのは、解放区となった安田講堂で映画を上映するため文京区役所で映写機を借りたら、「思っていたよりも重く」炎天下、苦労して本郷まで運んだ行だ。

※週刊ポスト2015年11月6日号

関連記事

トピックス

ヴィクトリア皇太子と夫のダニエル王子を招かれた天皇皇后両陛下(2025年10月14日、時事通信フォト)
「同じシルバーのお召し物が素敵」皇后雅子さま、夕食会ファッションは“クール”で洗練されたセットアップコーデ
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
【長野立てこもり殺人事件判決】「絞首刑になるのは長く辛く苦しいので、そういう死に方は嫌だ」死刑を言い渡された犯人が逮捕前に語っていた極刑への思い
NEWSポストセブン
ラブホテルから出てくる小川晶・市長(左)とX氏
【前橋市・小川晶市長に問われる“市長の資質”】「高級外車のドアを既婚部下に開けさせ、後部座席に乗り込みラブホへ」証拠動画で浮かび上がった“釈明会見の矛盾”
週刊ポスト
米倉涼子を追い詰めたのはだれか(時事通信フォト)
《米倉涼子マトリガサ入れ報道の深層》ダンサー恋人だけではない「モラハラ疑惑」「覚醒剤で逮捕」「隠し子」…男性のトラブルに巻き込まれるパターンが多いその人生
週刊ポスト
問題は小川晶・市長に政治家としての資質が問われていること(時事通信フォト)
「ズバリ、彼女の魅力は顔だよ」前橋市・小川晶市長、“ラブホ通い”発覚後も熱烈支援者からは擁護の声、支援団体幹部「彼女を信じているよ」
週刊ポスト
新聞・テレビにとってなぜ「高市政権ができない」ほうが有り難いのか(時事通信フォト)
《自民党総裁選の予測も大外れ》解散風を煽り「自民苦戦」を書き立てる新聞・テレビから透けて見える“高市政権では政権中枢に食い込めない”メディアの事情
週刊ポスト
ソフトバンクの佐藤直樹(時事通信フォト)
【独自】ソフトバンクドラ1佐藤直樹が婚約者への顔面殴打で警察沙汰 女性は「殺されるかと思った」リーグ優勝に貢献した“鷹のスピードスター”が男女トラブル 双方被害届の泥沼
NEWSポストセブン
出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
NEWSポストセブン