「空売り」では株価が高い時に売って、低い時に買い戻せばその差額分が利益になる。つまり株価が下がれば下がるほど儲かる。
たしかに2014年7月16日のTSIホールディングスの株価は午前中の高値から一転、午後に入って大幅に下落する不可解な値動きを見せた。その日は、普段と比べて異様に取引量が多かったことも疑いに拍車をかけた。
とはいえ、「株をたくさん売ると株価が下がる」のは当たり前のこと。ライブドア社によるニッポン放送買収という重要事項を内々に知った上で株を買いに走った9年前の事件に比べて、悪質性はわかりにくい。専門家からも当局の対応に疑問の声があがる。
マーケットリサーチを行なうフィスコの田代昌之アナリストは「報道を見る限り、具体的に何が違法なのかわからない」と指摘する。
「そもそも空売り自体は合法的な取引行為です。終値関与についても“重要な終値に関与するのは好ましくない”という暗黙のルールこそあるが、ただちに違法とはいえない。これがアウトなら、(市場が終わる)15時間際の売買すべてを取り締まる必要性が出てきます。市場の公平性、健全性の問題にもかかわります」
金融商品取引法は複数の個人や機関が共謀して同時期に株式を売買し、意図的に株価を変動させて他の投資家を欺く行為を禁じている。TSI株の売買には村上氏のほか、旧知の関係者や関連企業など複数の個人や企業が関わっていた疑いがあり、当局はこの点を問題視したようだ。
ただし、そうだとしても“なぜ村上氏だけがターゲットになったのか”という疑問は残る。元メリルリンチ日本証券投資銀行部門マネージング・ディレクターで維新の党の木内孝胤(たかたね)・衆院議員はこういう。
「私の理解では村上氏の行為はあくまでグレーゾーンであり、今回のような取引はヘッジファンドや外国人投資家の間では日常的に行なわれているものでしょう。もちろん、違法性があるからSESCが強制調査したのでしょうが、有名人を挙げれば効果が大きいことも事実。村上氏は他を牽制する“見せしめ”にされた疑いがある」
※週刊ポスト2015年12月18日号