インドネシアの高速鉄道計画を、現地政府の財政負担を伴わない形で提案するという“札束外交”や、「3年で完成」という実現できるとは思えない提案で日本を出し抜いて受注したり、イギリスを訪問した習近平・国家主席が原子炉や高速鉄道をトップセールスしたりしているのが、その一例である。

 だが、それらは失敗に終わる可能性が高い。理由は二つある。まず、これまで中国が国内で進めてきた急速かつ大規模なインフラ工事は、共産党一党独裁で土地が国有だったからできたことである。つまり、プロジェクトに必要な土地は、強制的に収用できる。

 しかし、他の国では土地は私有だから、そういうわけにはいかない。高速鉄道や高速道路といったインフラプロジェクトの土地収用や環境アセスメントをはじめとするフィジビリティスタディ(実行可能性調査)には膨大な時間と労力がかかるが、中国には地主と交渉した経験もなければ、フィジビリティスタディのノウハウもない。

 もう一つの理由は、中国に海外インフラプロジェクトの運営ノウハウがないことだ。海外のプロジェクトには、ファイナンスやエンジニアリングなどを全部きめ細かく運用するプロジェクトマネージャーが不可欠で、そういう人材を育てて企業が十分なノウハウを蓄積するためには50年くらいかかる。

 日本のプラントエンジニアリング専業大手3社(日揮、千代田化工建設、東洋エンジニアリング)も、これまで苦労に苦労を重ね、血と汗と涙の物語で経験値を蓄えてきた。それでも、利益を出すのは簡単ではない。それほど海外インフラプロジェクトというのは難しいのだ。

 そうした経験も人材もノウハウも持っていない中国が、海外で高速鉄道などの大規模なインフラプロジェクトを成功させることができるとは思えない。おそらく、中国が手がけた海外プロジェクトはことごとく中途半端な状態で頓挫してしまい、世界中にインフラの“鬼城(ゴーストタウン)”ができるだろう。

※SAPIO2016年1月号

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