「『凶悪』で演じた実在の殺人鬼は、地元ではいいお父さんとして知られていた面もあり、連続殺人鬼だからといって狂った演技をせず、ごく普通の人として見せているそのギャップが、かえって恐いですよね。あの力の抜けた感じでいるからこそ、怒るシーンでは、大事なことを言っているとすごく響く。狂った台詞も、逆に怖さが際立つ。めったに本気にならない感じだから、強く言ったときはものすごく本気に聞こえる。メリハリがぐっときますよね。そういうところも重宝されているのだと思います」
リリーが持つ俳優としての魅力は、得体が知れないところだと町山さんは言う。
「話していても、ちょっとわからないところがある。すごくたくさん考えているとは思うんですけど、わかっていてあえて言わない感じなのが怖いんですよね」
誰でも日常、ある程度は自分を演じているものだが、映画の中でも日常でも、誰と会っていても、自然体でいられるのがリリーの強みであり、魅力でもある。道端で知らない人に声をかけられ、そのまま飲みに行ってしまったという有名なエピソードもある。
「そういうところで全く構えていないんですよね。誰といるときも緊張しない。昔からそういう感じです。昔、編集者としてリリーさんと仕事をしたとき、原稿が全然こなくて落ちそうになったときにも、『リリーさん困ったよ、書いてくれないと印刷が間に合わないし大変なことになるよ』と電話で話したらそのまんま原稿で書いてきて、とんでもね~なと思いました(笑い)。電話や打ち合わせでしゃべったことをそのまま原稿に書いたりするからびっくりしますよ」
映画やドラマの中で、演技をせず自然体でいるような名優がかつてはいた。そういう存在が今、ほかにいないことも大きいのではと町山さんは語る。
「リリーさんは、そのうち笠智衆みたいになっているかもしれませんね。笠智衆さんはどの映画でもキャラが同じですが、昔からそういう俳優さんは何人かいたんです。由利徹さんもそうでした。どの映画でも由利徹をやるの。ビートたけしさんが重宝されたのも、刑事でもやくざでも、どんな役でも基本的にたけしさんのままでやるから使いやすいんだと思います」
2016年には、15年ぶりの単独主演作『シェルコレクター』(2月公開)をはじめ数作が控えているリリー。八面六臂の活躍はまだまだ続きそうだ。
撮影■小彼英一