安倍首相と自民党は「TPP(環太平洋パートナーシップ)に関する総合的な政策対応に向けた提言」の中で、またも広告代理店が作ったCMのような「新輸出大国」という新しいキャッチフレーズを打ち出した。そしてTPPは、とくに地方の中堅・中小企業にとって大きなチャンスになり得るとして、鯖江の眼鏡、今治タオル、美濃焼などの陶磁器といった地場産業の輸出の後押しともなると強調している。
鯖江の眼鏡や今治タオルや美濃焼などの陶磁器はイタリアの地方の名産品、特産品と似ていると思うかもしれないが、似て非なるものである。いずれも世界ではブランドの知名度は低く、競争力がない。ブランドを維持するカギはデザイン力だ。そのためにはスイスやイタリアのような仕掛けを作らなければ、世界最強の会社や世界最強の市町村を生み出すことはできない。
日本は結局、いつも中央の政治家と役人が“自分たちの手のひらに乗ったら恵んでやる”というやり方だ。ふるさと割しかり、家電や住宅のエコポイントしかりである。税金のバラ撒きが、国民を元気にする“媚薬”だと思っている。
しかし、価格は商品の価値を反映するものだから、ふるさと割のプレミアム付き旅行券・商品券で本来の価格より安く買ってもらうのは、売れない店のバーゲンセールと同じで、ただ単に価値を下げているだけである。それを国民の税金を使ってやっているのだから、日本は実におめでたく、ほとほと情けない国である。
※週刊ポスト2016年1月1・8日号