「『ひとつ屋根の下』は脚本家の野島伸司君やフジテレビのスタッフたちによる『若者たち』へのオマージュですね。相手が若いからといって、意識はしません。『君ね、ここはこういうふうにやったらどう』というのは、一番よくないですね。
その人を尊重して、その人がよほど『これはどうしたらいいですか?』と聞いてきた時には『今のままでいいんじゃない』『ここはもう少しトーンを上げてみたらどうだろう』と答えることもあるとは思いますが。
あくまで、俳優は台本ありきの存在です。その中で、自分はどういう役割を担えばいいのか、そしてその役割をどう果たすのか。それだけなんですよね。
『自分だけ良ければそれでいい』という人もいます。でも、俳優の役目というのは、自分を必要以上に売り出そうとしたり、自分のことを声高に主張したり、ということではありません。演出家が俳優に望んでいるのは、『この話のこの部分を埋めてくれればいい』ということです。ですから、それに合うように自分なりのやり方でやれば、その役目を果たせると思います。
もちろん、主役の時は周りから支えられていますから、その人たちにお任せする部分はあります。一方で、脇に回る時は主役を支える側になるわけですから、どうすれば彼や彼女がやりやすいかということが、大事な要素になってくるんじゃないでしょうか。ですから、やはり演技というのは一つのチームプレーなんだと僕は思っています」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』『市川崑と「犬上家の一族」』(ともに新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2016年1月1・8日号