大企業のトップが退任後に就くことが多いが、代表取締役や監査役と違って会社法上の機関ではない、日本企業独特の役職。それが「相談役」だ。“偉い人”というイメージはあるが、実際のところ、誰からどんな「相談」を受けているのかはあまり知られていない。相談役には、社長や会長を歴任した人物が就任することが多く、経営陣にとっては先輩にあたる。それゆえ、現職の社長や会長が悩みを“相談”できる唯一の存在ともいわれる。
トップとして最終的な決断を下す社長や会長は時に孤独と闘わなければならない。相談役はそれを支える貴重な役割を担う。では、具体的にどんな業務をこなしているのか。日本を代表する大企業3社の相談役に話を聞いた。
日産自動車の小枝至相談役(74)は、同社会長を経て、2008年に相談役に就任した。まずは率直に「普段何をしているんですか?」という質問をぶつけた。
「会長や社長は忙しいので、彼らに代わって財界活動や社会貢献活動など、いろいろな役目が相談役に回ってきます。私の場合、一般社団と公益法人の会長・理事長を合わせて4つ務めていて、そのほかに15団体ほどの会合にも出席している。肩書きがいくつあるかは自分でも知りません」
そうした活動に加え、カルロス・ゴーン社長兼CEOに人事面で提案することも小枝相談役の重要な役割だ。
「ゴーンは外国人ですからね。日本人の人事については定期的に打ち合わせをして、私から提案しています。昨年4月までは名誉会長との兼任だったこともあって年に数回やっていましたが、その後に1対1でミーティングしたのは1回だけです。自分があまり口を出すとほかの人がいいにくくなるでしょうから」(小枝相談役)
柔らかい物腰とは裏腹に、鋭い眼光からは財界の重鎮としての風格がにじみ出る。
ANAホールディングスは昨年4月に「相談役」のポストを新設し、大橋洋治相談役(75)が就任した。相談役は、社長、会長経験者を対象として、最高経営責任者としての経験に基づいた助言を与えることを目的にしているのだという。大橋相談役が語る。
「これまでの経験を問われることが多いのが、相談役という役職だと思います。事故や事件など、思いもよらないことが起こった時にどうするか。そういう意味では、航空会社には相談役という役職は向いているのかもしれません」
言葉を選ぶように話すその姿に、やはり威厳を感じる。