中国共産党の幹部も発禁本の存在を認めているのだから、こういう香港の書店はいわば“黙認”されているのかと思えるが、実はそうではない。実態はその逆だ。
この銅羅湾書店は中国当局の「ブラックリスト」に載せられており、2015年10月下旬、書店経営者や幹部、店主ら4人が広東省深セン市や東莞市などで突然、姿を消し、行方不明になっているのだ。
筆者(相馬)は香港を訪れるたびに、この書店で本を探しているので、気になり、事件が発生してからほぼ1か月後、香港に飛んだ。到着後、その足でこの書店を訪ねた。報道では「閉鎖」されているとのことだったので、てっきり店はやっていないと思っていたが、予想に反して、通常通り営業していたので、ちょっと驚いた。
今回の事件について、ちょうど書店で働いていた「店長代理」の胡志偉氏に話を聞いた。胡氏は作家で、香港の民主化運動の草分け的存在だ。
──書店は「閉鎖された」と報じられていたが…。
胡氏:「店主らが行方不明になってから2週間は閉じていたが、2015年の11月に入ってからは我々がやっている。我々は長い間この本屋で働いてきた。中国政府の圧力には屈しないよ」
──ということは、経営者や店主ら4人は、まだ帰っていないのか。
胡氏:「まだだ。どこにいるか分からない。ただ、行方不明になってから数日後に、経営者や店主が私に電話をかけてきて、『私は無事だ。もうすぐ帰る。心配するな』と言っていた。声の調子がいつもと違って緊張しているようだったので、誰かと一緒で、そいつに脅されているように感じた。実際、私の予想は外れてはいないと思う」
──彼らを脅しているのは誰だと思うか。
胡氏:「そんなことは決まっているさ。中国の公安(警察)や国家安全部だ。奴らはこの店が邪魔なんだ。これまでも中国に反抗する香港人を中国で逮捕してきた。そんなことをやるのは奴らしかいないよ」
胡氏が語るように、これまでも多くの香港人が広東省などで身柄を拘束され、秘密裏に取り調べを受けて、裁判で有罪判決を受けるというケースが起きている。
例えば、香港でベストセラーとなっている反体制的な「中国教父(ゴッドファーザー)習近平」という本の版権をとった出版社の姚文田社長が2013年10月、深センに行った際、化学薬品の密輸の容疑で公安当局に逮捕された。裁判の結果、懲役10年の判決を受けている。
また、中国に批判的な月刊誌「新維月刊」と「臉譜」を発行する出版社の王健民社長も2014年5月、深センに入った際、身柄を拘束された。その1年半後、「非合法出版物の発行」などの罪名で裁判が行われており、近々判決が発表されるとみられる。
※SAPIO2016年2月号