「『仁義なき~』はやりよかったね。自分をそのままやってればいいから。ああいう親分、面白いよね。見栄ばかり張って、『殺ってやれ』とか言ってるのにテメエはおどおどしている。深作さんがちゃんと俺を見て配役をしてくれた。そうしてくれると自分もやる気になる。いい監督って役者を見てるんだ。ガラだけじゃなくて性格まで。
金子信雄さんも面白かった。文学座の大先輩だけど、現場に行ったら先輩も後輩もないからね。役者としてのぶつかり合いだから。それでやるから、自然とああいう画になっていく。市川崑さんも役者の芝居を引き出すのが上手い。冗談を言いながらリラックスさせてくれるから、現場でもホッとするんだ。
俺の役は原作にはなくて崑さんが作った。おどろおどろしいばかりだったら、お客がくたびれちゃう。ホッとさせる瞬間が欲しい。だからコメディ・リリーフって必要なんだ。崑さんはそこを計算していた。しかも、いかつい顔をした俺にその役を振ったのが上手いとこだよね。
でも、笑わせようという意識持って芝居したら絶対にダメ。役者としては一巻の終わりだよ。
真面目にやらなきゃ。ウケようと思ってやった芝居は厭らしい。引っくり返ってコケるにしても、一生懸命になるから客観的に観て面白いんだよ。真剣に転ぶから観客にはおかしい。あざとい芝居は見ていられない」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』『市川崑と「犬上家の一族」』(ともに新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2016年1月29日号