国民党政権も遅ればせながら行政院が主導して、キーテクノロジーの開発・推進への支援に乗り出した。蔡英文女史もまた、この分野に力を入れていくことを政策提言の中で高らかに宣言している。
かつての技術力、開発力を取り戻し、それを発展させて、「対中」依存体質から抜け出せるかどうか。そこに台湾の「今後」の鍵がある。
「自由」と「民主」が存在しない共産党独裁国家への台湾人のアレルギーは凄まじい。一方、中国にとって悲願だった「太平洋への進出」には、台湾併呑が必須だ。熾烈な中台の駆け引きは、これからがまさに本番を迎える。
「今後、国民党政権に一度でも戻れば、それは“中国との一体化”が現実のものになることを意味します。つまり、民進党は、今後の選挙に“勝ち続けなければならない”ということ。その意味で、蔡英文政権というのは、いわば“台湾存続”のための土俵際の政権なんです。一度も負けられない背水の陣の蔡女史の戦いを見守りたいですね」(在台ジャーナリスト)
やはり、中国による台湾併呑は将来、現実になるという悲観的な予測が多い中、蔡女史の「敗北が許されない戦い」を見守りたい。
【PROFILE】1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒。ノンフィクション作家として、政治、司法、事件、歴史、スポーツなど幅広い分野で活躍。『この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。最新刊は『日本、遥かなり エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」』(PHP研究所)。
※SAPIO2016年3月号