「彼女たちに共通しているのは、自身の学歴に対する劣等感です。“私が手に入れられなかったものを子供の人生で穴埋めしたい”という欲求を握りしめている。中でも血が出るほど強く握りしめている母親の場合、その指を一本一本開いていくのは至難の業です。問題なのは、多くの塾が母親たちのこの過剰な熱を諫めることなく、逆に利用していることです。B校に受かれば子供の人生はバラ色、落ちれば地獄だと不安を煽り、特別講習の宣伝をする。ほとんどの母親は、子供の意思など無関係に、妄信的に申し込みます」
宝槻氏によれば、相模原市の母子心中事件の土壌を作っているのは塾の存在もあるのでは、と指摘する。
「高校受験の失敗なんて、人生全体からみれば何も気にすることはない。本来、塾は母親にその当たり前の事実を教え、狂気の歯止めになるべき存在なのに、むやみに不合格の恐怖をちらつかせて、母親と子供を追い詰めている。相模原の母子は、この国の受験産業の被害者なのではないか。そんな気がしてなりません」
受験関連の痛ましい事件は過去にも起きている。1994年、千葉県千葉市で高校受験に失敗した息子と父親が海に身を投げ心中。2006年には父親の暴力で勉強を強要された奈良県の高2男子が、自宅を放火して継母と異母兄弟を殺す事件を起こしている。2011年以降、高校生以下の子供の自殺者が年間300人を割ることがない。
《入試の点数などという、人間全体から見ればほんとうに些細な数字に右往左往するのが当たり前だと思っている日本の現状は、敢えて言えば犯罪的だと私は前から思っています。教育関係者は、良心が傷まないのでしょうか》
2月19日、相模原の事件を受け、脳科学者の茂木健一郎氏がブログで綴ったこの問いかけは重い。
※女性セブン2016年3月10日号