主人公のサンちゃんはおおらかで、夫のただごとでない変化もぜんぶ受け止め動じない。
「社会と無関係な人間になったような鬱屈や実存の不安を抱える主婦、っていうのを私はうまくイメージできない。夫が死ぬのとペットが死ぬのとどちらが悲しいかな、って商店街を歩きながら考える主婦のほうがリアルで、夫の目鼻がどんどん崩れ出す状況になっても『まあいいか』ってのみこんでしまえるサンちゃんの恐ろしさにつながっています」
演劇と小説が表現活動の両輪だったが、劇団の活動を休止、小説1本に絞って書いた作品でもある。
「公演と公演の合間の3か月でずっと書いてきて、一度、その枠を払ってみたいと思ったんです。『やっぱり戻る』って思っても帰る場所はないかもよ、と言われましたが、ちゃんと明言することで私がどういう人間かは伝わるかなと。結果的に退路を断ってしまいました」
右手で抱えた赤ちゃんに授乳しながら左手で書く、綱渡りの日々だ。
「誰にも見せられない姿です(笑い)。子供が生まれた、というのは自分の視点が大きく変わるきっかけになりそう。小説で夫がいろんな形に変えられたように、赤ちゃんもいろんな形に変えられてしまうのかな」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2016年3月17日号