北朝鮮が何にもまして恐がっているのは米国の軍事力である。朝鮮戦争(1950~1953年)の際、首都・平壌をはじめ全土を徹底的に報復爆撃されたことが最大のトラウマになっているからだ。
金正日時代の2003年春、米国のブッシュ政権の主導でイラク戦争が起きた。イラクで米軍の軍事作戦が展開されていたころ、北朝鮮では2月から4月にかけ金正日の動静が途絶える「ナゾの50日」があった。
後に韓国の情報筋が明らかにしたところによると、この時、金正日は北部の白頭山の麓にある非常時の地下司令部にこもり、米軍のイラク攻撃を仮想体験していたという。金正日は「フセインの次は自分」だと、真剣に恐れたのだ。
金正恩の軍事的暴走は、大統領選に突入し対外的に動きが取れない米国の足元を見ながらの“駆け込み作戦”というのが平壌ウオッチャーのもっぱらの観測だ。そしてソウルでは、北朝鮮の核問題解決=核放棄には「やはり北のレジーム・チェンジ(体制変化)つまり“金正恩はずし”しかない」との声があらためて広がっている。
●文/黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員
【PROFILE】1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)など多数。
※SAPIO2016年4月号