ライフ

【書評】反体制を貫いたヴォネガットのユーモア溢れる言葉

【書評】『これで駄目なら』カート・ヴォネガット・著/円城塔・訳/飛鳥新社/1600円+税

【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)

 二十世紀アメリカ人作家の中で、最も広く影響を与えたといわれるカート・ヴォネガット(一九二二~二〇〇七)。代表作は第二次世界大戦を兵士として、ドイツの捕虜として体験したことが投影された『スローターハウス5』など多数にのぼる。日本でも六〇年代から翻訳されてきて、影響を受けた日本人作家も多い。

 反体制の立場を貫き、ヒューマニズムを支持した彼が作家としての名声を得たのは四十代後半になってからだが、カウンターカルチャーの旗手、若者たちの代弁者ともいわれた。その作風は〈話すときも書くときも、ヴォネガットはいつも平易な言葉と言い回しを用いて、誰もが感じてはいるもののうまく言えないでいることや内面を的確に表現し、先入観を揺さぶり、物事を違う角度から見ることができるようにしてくれる〉。

 本書はヴォネガットによる卒業式講演やスピーチをまとめたもので、社会へ巣立つ若者たちに贈るメッセージというべきものだが、その語り口はかなりぶっ飛んでいる。政治の批判も辛辣だが、ユーモアにあふれている。

〈今、謝ろう。この星がおかれている恐ろしくひどい状況について。まあずっとひどかったわけだが「古き良き日々」なんてものは存在したことなんてない。ただ、日々があっただけだ。わたしは孫に言うことにしている。「わたしのほうを見るな。こっちだって生まれたばかりなんだ」。〉

 年長者だからといって、若者たちを未熟者として扱ったりはしない。世代の違いは関係なく、同じコミュニティに生きている者同士であることを、そしてちゃんとした大人になろうとヴォネガットは繰り返し語りかける。

〈やらなきゃいけないことはたくさんある。/やり直さなきゃいけないこともたくさんある。精神的にも、肉体的にも。/そうして、もう一度言おう。幸せの種もたくさんある。/忘れちゃ駄目だよ!〉。

 本書のタイトルは彼が愛する叔父さんが、幸せとは何かを語った言葉からとられた。円城塔訳。

※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号

関連記事

トピックス

出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を演じる稲垣吾郎
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演、稲垣吾郎インタビュー「これまでの舞台とは景色が違いました」 
女性セブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反容疑で家宅捜査を受けた米倉涼子
「8月が終わる…」米倉涼子が家宅捜索後に公式SNSで限定公開していたファンへの“ラストメッセージ”《FC会員が証言》
NEWSポストセブン
巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン