ビジネス

アベノミクスの円安誘導 中国の日本企業爆買いを促進

美的集団の日本語HP

「また一つ、日の丸家電が中国傘下に入ってしまうのか……」──業界関係者から嘆息の声が上がった。

 3月15日、経営再建中の東芝が、冷蔵庫や洗濯機などの「白物家電」事業売却について、中国の家電大手「美的集団」と最終調整に入ったことが報じられた。その直後の17日には、美的集団が早々と東芝と覚書を交わしたと発表。台湾企業の鴻海精密工業がシャープ買収を発表したときと同様、既成事実化して交渉のイニシアチブを握ろうとする意図が透けて見える。

「かつて世界を席巻した日本の家電メーカーは、いまや軒並み公的支援なしには経営が厳しい。シャープ買収劇がそうだったように、日本国内では出せない条件を海外企業が提示してくれば、それを拒否できない。

 しかし、いざ買収が決まれば途端に足元を見られ出す。鴻海はシャープへの出資金を約1000億円も減らすと言い出したが、資金繰りの厳しいシャープ側は何も言い返せない。東芝の交渉も同じ轍を踏みかねない」(経済誌記者)

 中国資本による日本企業買収は、今後さらに加速すると、その実態を調査しているシグマ・キャピタルのチーフエコノミスト、田代秀敏氏は指摘する。

「日本政府・日銀の円安誘導によって株価は円ベースでは上昇しましたが、ドルベースではそれほどではなかった。中国からすれば、日本株は割安なのです。今後も円安政策は継続されるでしょうから、買い手からすれば、黙っていても日本株がバーゲンセールになっていく状況です」

 民主党政権の野田佳彦・首相が解散を口にした2012年11月14日から日本では株価上昇が始まった。その日から今年3月18日時点までに為替レートは1ドル80.2円から111.6円まで円安が進んだ。この間の株価推移をドルベースで見るとわかりやすい。

「株価が回復したとされる企業でも、日本を代表する銘柄が割安で買える状態になっています。ソニーは円ベースでは株価870円から2936円へと実に3倍以上に値上がりしましたが、ドルベースだと10.8ドル→26.3ドルで2.5倍の上昇にとどまっています。つまり買い得だということ。まして株価の下がったシャープは2.0ドルから1.2ドル、東芝は3.3ドルから1.8ドルと、ドルベースの株価は暴落している。これでは買いたたかれるのは必然の帰結です」(田代氏)

 アベノミクスの円安誘導路線は皮肉にも、中国による日本企業“爆買い”を促しているのだ。

※週刊ポスト2016年4月8日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン