◆日本人の覚悟が問われる
1972(昭和47)年、中国との国交正常化に突き進んだ田中角栄内閣は、非情にも台湾(当時は中華民国)を切り捨て、「日華断交」をやってのけた。うしろ足で砂をかけるような断交の仕方に、台湾の世論は沸騰した。
しかし、それでも、台湾人は日本への思いを断つことがなかった。その台湾人の温かい心が、現代の若者にまで「引き継がれた」のである。
では、私たち日本人は、そんな台湾人の思いにどう応えられるのだろうか。すでにアメリカと中国は、台湾をめぐって激しい鍔ぜり合いをおこなっている。
先に仕掛けたのは、中国だった。2005年4月に、中国では「反国家分裂法」が制定されている。これは、台湾で“独立”の策動が見えた場合、台湾独立派分子に対して「非平和的手段」を取ることを合法化した強烈な法律だ。
一方、アメリカも負けていない。アメリカは断続的に台湾に武器供与を続けており、国民党の馬政権に対してだけでも、8年間に総額およそ200億ドル(約2兆4000億円)相当の武器売却をおこなっている。昨年12月には、中国の猛反発をものともせず、ミサイルフリゲート艦や対戦車ミサイルなど総額18億3000万ドル(約2200億円)の武器売却を決めた。
かつての“反共の砦”台湾に対して、アメリカは中国と国交を樹立した時ですら、「台湾関係法」を結び、以降、陰に陽に台湾をバックアップしてきたのである。「国共内戦」終結以来、まさにアメリカの抑止力によって中台関係は、平和が保たれてきたのだ。
極めてデリケートで微妙なこの関係は、民進党の蔡英文政権発足によって、どんな変化を見せるのだろうか。それは、台湾-日本-米国という自由と民主主義という共通の価値観を持つ三者が、「力による現状変更」を続ける中国とどう対峙していくのか、ということである。
台湾関係法によって台湾の防衛義務を有するアメリカとのバランスが崩れ、米・中が武力衝突する日が訪れた時、日本は果たしてどうするのだろうか。
その時、「日本と密接な関係にある他国(ここではアメリカ)」が攻撃を受け、「日本の存立が脅かされ、国民の生命や幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」と判断された場合、一体、どうなるのだろうか。
それは、私たち日本人の覚悟が問われる「日台新時代」の到来なのかもしれない。
●かどた・りゅうしょう/1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒。ノンフィクション作家として、政治、司法、事件、歴史、スポーツなど幅広い分野で活躍。『この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。最新刊は『日本、遥かなり エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」』。
※SAPIO2016年5月号