『潔斎』とは何か。宮中祭祀を司る掌典職として、57年もの長きにわたって皇室に仕えた高谷朝子さんの著書『宮中賢所物語』(ビジネス社刊)に、潔斎についての記述がある。まとめるとこうだ。
宮中祭祀に臨むときには、起床後すぐに歯を磨いて口を清めたあと、半畳ほどのござを敷き、この上に座って両手と片肌を脱ぎ、直径約40cmほどのたらいのお湯で顔、腕、襟回りを洗い清める。そして髪を結い上げ整えた後、湯殿にて、座って下半身を清めてから、桶の湯を柄杓で肩からかけて、体全体を清める。その後、着替えの間に移動し、古式の衣装を着用する──。
これは女官の潔斎についてだが、宮中祭祀にあたっては雅子さまも同様に清められる手順を行うようだ。
「こうした潔斎を、雅子さまは女官に全身をさらし、女官の手によって受けるといいます。複雑な手順を遵守するだけでも療養中の雅子さまにとってはかなりのご負担だったに違いありませんが、それを他人の手によって受けるというのは、精神的にも大変な面はあったことでしょう」(前出・宮内庁関係者)
さらに、雅子さまを悩ませた慣例があった。
「宮中では生理を、御所ことばで“まけ”といいます。この“まけ”の際には、血の穢れという概念から、宮中祭祀にはかかわってはいけないといわれているのです。雅子さまは皇室に嫁がれて以来、頻繁に生理のチェックをされたことをかなりご負担にお感じになっていたようで、それが巡って、宮中祭祀への見えない隔たりとなってしまったと聞きます」(前出・宮内庁関係者)
こうした“事前準備”が済み、雅子さまは『五衣』『小袿』『長袴』という古式ゆかしい装束に身を包まれる。着慣れない格好に、髪をおすべらかしに結い上げる肉体的な負担もさることながら、緊張と不安を増幅させるのが、宮中三殿の持つ独特な雰囲気だという。
「皇居の中でも奥まった場所に位置し、周囲を木々で囲まれた宮中三殿には、皇居周辺道路の音などもほとんど届きません。ただでさえ霊験あらたかな上、時が止まったような静けさに包まれるのです。聞こえるのは衣擦れの音だけ。そんな静寂への戸惑いやプレッシャーも、雅子さまにはおありになったのでしょう」(前出・宮内庁関係者)
撮影■雑誌協会代表取材
※女性セブン2016年4月21日号