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【書評】『初恋芸人』 性欲=お互いに大切に思い思われたい欲

【書評】『初恋芸人』中沢健/小学館ガガガ文庫/640円

【評者】枡野浩一(歌人)

 本書『初恋芸人』は本日まで3度読んだ。1度目と2度目は単行本で。3度目は文庫本で。初めて読んだときも感動したが、読み返すたびに主人公や登場人物を好きになっていく。じつにシンプルかつ普遍的なストーリーだが、中沢健が書くまではだれにも書かれたことがなかった。NHK(BSプレミアム)でドラマ化された今、海外で映像化されてヒットしてもおかしくないと確信している。

 ちなみに「動く待ち合わせ場所」という言葉をインターネット検索すると、本書の著者である中沢健の写真を大量に見ることができる。彼は全身にさまざまな言葉を書いた紙を張り付けて「歩く雑誌」として毎日を生きているのだ。似たようなことを思いつく者はいるかもしれないが、365日その姿で生きることは難しい。そんな難しい人生をやっている作家が、こんな凄い小説を書いたなんて。

 本作の主人公は童貞。『童貞芸人』というタイトルにしなくて大正解だったと思う。どんな男も童貞であったことがあるか、または今まさに童貞まっさい中であるので、本作はすべての男と関係がある。その男たちとかかわるすべての女にも関係がある。つまり、全人類に関係がある物語だ。

 主人公は中学のころ毎日いじめられていた。自分が好意を寄せてしまうと女性は傷ついてしまうと信じこんで生き、今は怪獣のオタク的知識を利用して売れない芸人をやっている。そんな主人公を嫌わない美少女が彼にメールをくれるところから物語が始まる。そのときの彼の喜びの初々しさといったら。女友達さえいたことのなかった彼は、少女と「友達づきあい」を重ねつつも、高望みをしないよう絶えず注意深く自分を制御している。

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