私もこれまで無料のネットサービスに携わってきたが、こうした罵倒は頻繁に寄せられるものだ。曰く「重い」「デザインを元に戻せ」「コメント機能を復活させろ」など様々で、運営側の判断や懐事情を慮る気持ちは一切ない。あくまでも自分にとっての利便性の追求のみを考慮に入れている。
「要望」や「提案」であれば、運営側にとってもありがたいものだが「馬鹿」「クソ」などと罵られるほどのことはないだろう。
バーベキュー会場近くのコンビニでは、ゲロまみれになるなどあまりにも使い方が汚いこともある。そのため便所を使えない措置を取ると、便所を利用したいだけの者から「なんで使えないんだ」とクレームを受けるという。余剰のサービスを親切心から提供すると、カネを払った客以外の「無料クレーマー」につけこまれる。
クレームをつけるにはそれ相応の資格(大金を払った、損害を被った)が必要という矜持はもはやなく、「オレ様の貴重な時間を使ってやったのに満足できなかった」ということぐらいしか根拠はない。
正直、無料クレーマーにかける時間は運営としては無駄である。だから、電話問い合わせは廃止し、問い合わせフォームは複雑化させ、意見を届けづらいようにする措置を取っている。
無料クレーマーの横行により、真の被害者の声が届きづらい状況になってしまったのだ。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2016年5月27日号